「変な事言ってごめんね…、はじめは…ちゃんと自分が幸せだと思う道を進んでるのに。わたし、変な事言ってるね」
「…俺は、」

俺は、後悔していたのか。ずっと。
まだ人を愛するという事を良く理解せぬまま隣に居た。いつしか、それが重荷になり、自ら手を離した。いつも俺の見る景色の中に咲いていた笑顔を、自ら…消した。

「…俺は、まだ、あんたを探している。毎日、流れ行く景色の中に…」
「え…」
「もう一度、幸せな夢を…」

見たい。

そこでプツリと電話が切れた。
それはそうだろう。自嘲めいた笑いを溢し、俺はまた夢の中へと落ちていく。きっとたくさん傷付けた。たくさん泣かした。それ故、これは己への罰なのだ。


けれど、忘れられない景色がある。


二月二十一日
今日はなまえに早朝の駅から見る朝焼けを送った。返事は無い。

二月二十二日
今日は、電車から見る都会の雑踏を送った。カメラ機能のシャッター音でたくさんの人間の注目を浴びてしまった。返事は無い。



二月二八日
今日は帰りに坂の上から見える夜景を送った。一日を振り返り明日も頑張ろうと思える景色。それに今やっと気付いた。返事は無い。

毎日、俺の送信メールボックスには彼女宛のメールが並んだ。付き合っていた頃にも、これ程頻繁にメールを送ってやることが出来なかった事が悔やまれる。少しでも気遣いが出来ていたら、今でも俺の隣りでなまえは笑って居てくれたのだろうか。
携帯が鳴る度に、手が震える。写真を送る度、宛先不明で返ってくるのではないかと肝を冷やした。
そでも、少しでも。伝えたかった。



「俺は、今もあんたを愛している」


あの日の夢は、毎晩見た。


三月一日
もう送る景色が無い。これだけ返事が無いのだ。そろそろ止めた方がいい。
最後に、…浅ましいとは思いつつも、己の想いの丈をぶつけようと思った。


『あの時は、すまなかった。少しでもなまえの見る景色が色のある素晴らしい物へと替わる様、願っている。俺の夢の中で泣いているあんたを少しでも笑顔に出来る様、俺も努力しよう。』




三月八日
会社帰りの電車の中で、携帯が鳴る。
満員電車の中、それを何となく理解し溜め息を付いた。もう期待はしないと。
何とか駅を降り、人が行き交う景色を背後にメールを開けると。


其処には、


『はじめが居る景色を見ていたい。だからもう離さないでください』


と、なまえの名前と共に表示されていた。
後ろからふわりと抱き締められる感覚がしたが、振り返らずとも理解できた。


「ああ…もう、何が何でも離さぬ」
「また、…一緒に夢を見てくれる?」


弾かれる様に振り向いてその小さく震えている身体を抱き締めると、いつも見ている景色の中に、あの日と同じく涙を瞳からたくさん溢れさせたなまえの笑顔が見えた。しかし、夢の中で見たそれとは違い。とても幸せそうで。同時に俺の視界も滲んでいった。



「あんたが俺の見る景色の中に居てくれるのなら、いくらでも見せてやる、」



同じ景色の中、





二人で幸せな夢を見よう

(はじめ、大好き)
(ああ、俺も…あんたが、なまえが好きだ)





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