「左之…、あんたは…」
「誤解だ斎藤!よく見ろっ、俺は何もしちゃいねぇだろっ!」
「その前にOLさんちゃん、はじめ君のお風呂覗いてるの…?」

「うわあああんっっ!離れたくないぃいーっ!!」


いよいよ本格的に泣き出したわたしを見て、目の前の斎藤さ…原田さんが頭を抱え、笑い転げていた沖田さんは、目尻に乗った涙を指で救っていた。
いつの間にか永倉さんと藤堂くんは、大口を開けビール瓶を抱えたまま眠りこけているし、土方さんはまだ別の世界に行ったまま帰って来ない。アウェイを通りこして、まさにカオス。
わたしはと言うと、感じる体温とは別にいつも抱き締めて貰った時に感じる匂いが違おも、一度入ったスイッチを切り替える術を知らないまま、目の前のワイシャツに顔を埋めていた。

すると、ぽんと肩に乗った大きな手の平。
真っ赤になった鼻を啜りながら顔を上げると、にっこり笑った斎藤さ…沖田さんが、わたしの名前を呼んで両手を広げていた。


「左之さんばっかりズルイでしょ?僕は?」
「う、うえぇええええーーーんっ!」
「総司、みょうじは酔ってんだぞ。あんまり面白がってやるなよ、」
「あはは、本当にぶっ飛んでるね。お酒って怖いなあ。いつものOLさんちゃんだったら、とんでもない目で僕を見てくるのに」


今度は笑顔の斎藤さんの胸に飛び込む。
またまた知らない匂いだったけれど、その広くて逞しい腕に抱かれるとなんだか安心する。ぽんぽんと赤ちゃんをあやすみたいに背中を撫でられて、わたしは「ああ、よかった。やっぱり斎藤さんは離れろなんて言わないですよね!」なんて喜びに浸っていた。ここまで語っておいてなんだけれど、殴りたい。この時の自分を。


「斎藤さん…、」
「残念。僕は沖田だよ、OLさんちゃん」
「わたし、凄くチュウが…死体です」
「字が違うね。でも、僕もOLさんちゃんだったら、いいかなあ…」


グッ、と背中に周った腕に力が篭り、さらに顔を寄せられて「斎藤さん、大好き」と思ったところで、わたしの身体は一気にグルリと景色を変えた。



「もういいだろう、」



ごん。と鈍い音がして、何か固いものに後頭部が触れる。
そして、やっぱり脳内に響く低い声。

同時に感じた匂いは、いつもの大好きなそれだった。


「あ、頭、頭打った…痛い、っ」
「OLさん、顔を上げろ」
「え?」


頭上から聞こえたはっきりとした声に、反射的に顔を上げたわたし。
その瞬間、唇に温かい感触。
そして、そのまま身体の芯まで震える様な甘い痺れと共にわたしの意識はぷつりと途切れた。
まどろみ、ぼんやりとする意識の中で斎藤さんのいつもより1オクターブ低い声と沖田さんの笑い声。そして原田さんの呆れ声が聞こえて、夢と現実の境目が曖昧だと、唐突に思った。包み込むように斎藤さんの体温が身体にあって、彼の声が聞こえる度に後頭部に安心感が広がっていく。



「はじめ君。お酒の席での可愛い冗談じゃない、そのビール瓶下ろして」
「あんたがアレくらいで酔うはずが無いだろう。大人しく観念して殴られてはくれぬか…総司」
「いやだよ、それを言ったら左之さんだってOLさんちゃんを泣かせたじゃない。それに対してのビール瓶は無いの?僕だけ?」
「そうだったな。左之…」
「斎藤、お前酔ってんだろ…」

「酔ってなどいない。酔っているOLさんを介抱するのが俺のいつもの役目だ。あんた達にその権利を渡してやるつもりも無い」
「取らねえって。取らねえから、取り合えず瓶置け。な?」
「あーあ。ホントはじめ君って、OLさんちゃん大好きなんだから。僕達が居るのにキスとかしちゃうキャラじゃないくせに…」


楽しそうな笑い声と、斎藤さんの匂いに包まれて
わたしは眠りに落ちていった。
ああ、やっぱり



お酒って、美味しい。






そして翌日は大反省会


(あんたはもう他の男と酒を交わすな)
(え?またわたし何かやらかしたんですか!?)
(盛大にな…。俺とて身が持たん…)
(うう、わかりました。でも斎藤さんとだったら…?)
(無論。問題ない)
(わあい!)




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bkm

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