「あー、やっぱりあっちのテーブル行っちゃったぁ、今日は遠いなぁ」
「本当だー、今日は斎藤さんのあの美しい箸使いや、平ちゃんの“うめぇ!”が聞けないね」
「あと原田さんのご飯食べる前の腕まくりとか…永倉さんの男らしい食べっぷり…」
「沖田さんって小食なんだよねー。あと、土方さんが幸せそうにプリン食べる所見たかった…」

ちょっと一瞬鬼部長の可愛い一面を垣間見た所で、前方を見やるとみんなの視線を受けつつわたし達より離れた場所に落ち着くイケメンバーが見えた。
ここから見えるのは小さな彼等の背中だけ。あ、いや…。沖田さんと斎藤さんは一応こっち向いて座ってるか。
そんな事を考えつつもぼーっと見ていると、沖田さんが隣りの斎藤さんに何やら耳打ちをしているのが見えた。斎藤さんも少し鬱陶しそうに身体を避けて居たけど、次の一瞬の内にピタリと固まったかと思ったら…


わたしと目が合った。


「…………?」


様な気がした。


そしてニヤニヤする沖田さんと、俯く斎藤さん。箸を持ったまま長い前髪で顔を隠した斎藤さんは沖田さんに一体何を聞いたんだろう。当の沖田さんはいつものニコニコ顔でプリンを食べているし。…え!?ちょ、あの人デザート先に食べてるよ!子供かよ!!!!!

そしてわたしもそろそろ時間が迫ってきていたので「まあいいか」と食べるのを再会して同僚達の話に加わった。


「さーて!プリン!プリン!」
「うわああ、いいなぁ!何気に仕事来てるのにスイーツ食べれるって最高の贅沢だよね!」
「でしょー!あげないからね」
「学生の時に教室で食べるコンビニプリンとか、何かワクワクしたもんなぁ」
「OLさん…あんた、どんな学生生活送ってたのよ…」
「次デザートある時にまた誘ってあげるよー、OLさんもお弁当無しで私達と定食食べよ?」
「うん…今日は、我慢する…」

それでも物欲しそうにプリンを凝視するわたしに、同僚は何だか身(プリン)の危険まで感じたらしく、サッと隠す様にプリン様を避けた。
それに小さく舌打ちをしながらも空になったお弁当箱を片付けていく。ちくしょー…いいもんね。別にいいもんね。もう子供じゃないんだからプリン一つで駄々捏ねたりしないもんね。あ、いや…待てよ。

「あ、じゃあさぁ。その蓋についてるところだけでも…舐め、」
「お前!女のプライド何処落としてきたああああ!」
「いいじゃん!!!!蓋じゃん!どうせ捨てるじゃん!蓋についてしまったが為に捨てられるプリンの気持ち考えたらわたし女神じゃん!!!!」
「ストップ!OLさん!それは流石にやばい!私のあげるから…」

ここがおんもだと言う事も忘れてギャンギャンとプリンの蓋を奪おうとするわたしを止める同僚。この時わたしは目の前のプリンの魔力によって自我を忘れていたと思う。
手を伸ばして、同僚の手の中にあるその蓋を取ろうとした時だった。

目の前にコトンと置かれた、未開封のプリン。
そして、首筋を撫でた布の感触。


「っ!」
「え、さ、斎…え!?」
「え、え…?」


「プリンが現れた!!」と叫んだわたしとは対照的に、同僚達は目を見開いてわたしの後方を凝視して固まっていた。状況が理解出来ていないのはわたしだけの様で、どうやら周りの女子社員の殆どがわたしの後ろへと視線を投げて居た。
取り合えずプリンから目を離し、ゆっくりと後ろを振り返ると、


「OLさん、これでいいのか」
「さ、斎藤さん」


プリンをテーブルに置く為に腕を伸ばしたままの斎藤さんが、少し頬を染めつつもわたしを見下ろしていた。首筋に触れたのは、彼のピンをしていないネクタイだったらしい。





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