「え、斎藤さ、」
「OLさんの酒での失態だと?そんな程度ならまだマシな方だと言っている」
「え、ちょ、え、」
「先月、俺と飲んだ時に、手洗いに立った筈のOLさんがいつまで立っても戻らぬ故、探しに出たら店先にあった狸の置物に説教をしていた…」

「え、」
「は、」
「ぶっ!」


突然話し出したと思ったら、ここ最近飲みに行った時にわたしがした(らしい)珍プレイを語りだした斎藤さん。
その重そうな瞼は、わたしじゃなくてその友達に向けられていて。更に睨む様な…いや、若干据わっている様にも見える瞳が真っ直ぐに表していた色は…

「あげればまだまだある。それに対応出来なければOLさんと酒を飲む等…出来ぬだろうな、」
「え…、は、はあ」
「張り合ってる張り合ってる…はじめ君それじゃあまるで威嚇…ぶふっ!!!」

ふ、と鼻で笑って見せた斎藤さんはまるで友人と張り合う様に机に肘を置きグラスを傾けて見せた。そして一方的に目から火花を散らしている斎藤さんを目の当たりにした友人は当然ポカンと口を開けている。それを見て楽しそうな沖田さん。そして…


わたしはというと。


「わたし…そんな、そんな恥ずかしい事を…斎藤さんの、前で、え、ちょっと待って、記憶に無いんですけど…え、?狸と会話…?料理場に殴りこみ…?え?何、斎藤さんなんて言った…?」

その場に両手を着きだらだらと冷や汗をかいていた。

「OLさん、この人すげぇ恐い…んだけど、おい、ねえ聞いてる?」
「待って、わたしそれ所じゃないの…、え、わたし死ぬべき…?」

斎藤さんが、未だ止らぬ口で「OLさんは更に家に着くと鍵と間違え裂けるチーズを…」とか言ってるのが遠くで聞こえるけど、それって斎藤さんの話しじゃなかったっけ。とか考えるだけでわたしは何も言えなかった。

そこでずっと爆笑していた沖田さんが薄っすらと涙を浮かべて締めに掛かる。

「まぁそう言う事でさ、約一名がヤキモチ妬いちゃうから、キミあっちで大人しく飲んでてね、僕はとばっちりなんてごめんだよ」
「は、はい!じゃ、じゃあまたな、OLさん!酒も程ほどにしろよ!」

ついに斎藤さんのマシンガントークに滅入って来たらしい友達がくるりと身体を返しあちらの賑わいに逃げたところで、わたしは身体を起こし目の前で半分飲みになっていた自分のグラスを仰ぎ、それを机に叩き付けた。顔は、真っ赤だ。これが酔いから来ているのか、羞恥からきているのか分からない。


「OLさん。いいか、あんたは飲みすぎだ。俺があれほど控えろと言っただろう。そもそもあんたは異性に対して無防備過ぎる、例え昔馴染みと言えどもいつまで学生気分で居るつもりだ、もう俺達は己の行動ひとつひとつに責任を持って…」
「ささささ、斎藤さん、わたし…なんてご迷惑を、」

何故か、わたしの珍プレイ晒しからただの説教へと変わっている斎藤さんの言葉を遮り慌てた様に頭を下げる。


「いや…」


しかし、斎藤さんはゆっくりと身体を乗りだし、そんなわたしの頭に手を伸ばした。


「それでも、あんたと飲む酒はどの席で振舞われる酒より旨く感じるのだ…。いつも楽しませて貰ってる。礼を言う。ありがとう」
「さ、斎藤さん…、」

ふわりと撫でられた頭と、顔を上げた時に見えた斎藤さんの笑顔で一気に酔いが回ってしまった。

「あーあ、結局僕がとばっちり…」

隣りの沖田さんがやっぱり詰らなさそうにお酒を飲んで小さくごちた。





珍プレイ好プレイ

(でも一つ言わせて頂くと、裂けるチーズネタは斎藤さんですよ、)
(俺がその様な失態を犯す筈が無いだろう、あんたがした事だ)
(いやいや、そこだけは違いますって、)
(断じて無い!)

(どっちにしろ…同じ穴のムジナじゃない…)


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bkm

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