目を見開いて、思い出した様に空気を吸うと頭にカッと血が上った気がした。
そのままテーブルの上のグラスを倒して駆け出す。
他の席に料理を運ぶところだったらしいウエイトレスと見た事も無い男を押し退け店の外まで走ると、そのままはじめ君の肩口を引っ掴んで大声を上げていた。


「キミは何してるのっ!?」
「そ、総司…!?」

何してるも、どれしてるもない。
手元にある携帯は未だ通話中の画面で、それを見た途端一気に太陽の光りが強くなったきがして目を細める。突然僕に服を掴まれて驚いているはじめ君越しに、沢山の人が僕達を遠巻きに伺ってるのが見えた。

「貸して、っ」
「お、おい!」
「キミ、同じ科の子だよね?もう二度と電話掛けて来ないでよ。次掛けてきたら僕が容赦しない」
「総司!あんたは何を!?」
「…、」

ブツンと電話を切った僕を見て、はじめ君は怒ると言うよりただ驚き目を見開いているだけで、状況が未だ理解出来ないらしいはじめ君を見下ろして僕はただ歯を食いしばってた。

だって、

その後ろに、なまえちゃんが沢山涙流しながら僕を見ている姿が一瞬チラ付いたから。


バッと掴んでいた服を離すと、思わず拳を作った手の平が震えてた。情けないよね、女の子泣かせて、はじめ君に八つ当たりなんて。
人間に裏表があって、当人が知らないなら…いや、知っていてもそれを我慢してるなら何もわざわざ引っくり返すなんてしなくていいじゃない。って。でも耐えられなかった。

「ねぇ、なまえちゃん。泣いてるよ、いいの?」
「…っ!?」

僕達が座っていた席をガラス越しに振り返ったはじめ君は、まだ涙を止めず此方を見ているなまえちゃんを見て言葉を失ってた。


「僕ははじめ君を殴ってなんてあげない。今此処で思いっきり殴って、君の格好悪い姿見せたってきっとなまえちゃんは喜ばないでしょう?」
「総司…、」
「ただ…悲しむから…。だから殴らない」
「すまない、」
「何で僕に謝るのさ。相手違うと思うけど?」
「なまえ、っ」


慌てて店内へと戻ったはじめ君は、そのまま人の注目を集めたまま泣いてるなまえちゃんを抱き留めてた。その瞬間、僕は失恋確定。

ううん、もう大分前から決まってたんだと思う。

店の外で未だ佇んだまま二人を見ていると、今度は自分が泣きたくなってきたけど、まぁいいや。ここははじめ君に奢らせよう。そして二人にしてあげよう。それでなまえちゃん泣かせた事はチャラ。


僕が大好きな人には、好きな人が居た。
別にそれは大した問題じゃないと思う。本当に手に入れたいなら奪っちゃえばいいと思うし。奪うにしたって別段難しいだろうとは思わないし。

でも、


「なまえちゃんが泣いてるところは、やっぱり見たくないや」


一杯我慢した分沢山泣くといいと思うよ。
はじめ君の腕の中でなら、きっと冷たい涙なんて流れないでしょう?
それなら、僕だって「いい」と思える。


「さてと、かーえろ」


未だ僕を見ている通行人に、ニッと笑って僕は駅に向って歩いて行った。
人と人の繋がりってやっぱり面白いや。こんなドラマのワンシーンみたいな事が起こっても、どうやらその主人公は僕じゃなかったんだから。


それに、
僕には一つ収穫があったからよしとしようか。


僕にもさ。
いつかあんな横顔を向けてくれる子と出逢える。そんな恋がしたいと…


思ったんだ。




キミの横顔が好きでした


(その夜、なまえちゃんから「ありがとう」ってメールが来た)
(それに僕は)

(「こちらこそ、ありがとう」と送り返した。恋って難しいや)


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bkm

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