「斎藤さん?」
「ああ、そうだな。…俺の家だ、恋人のあんたが脚を出そうが腕を出そうが…俺が慌てる様な事では、無かったな」
「はい、そうですよ。わたしだって斎藤さんの恋人なんだから“彼シャツ”の気恥ずかしさなんて、そのまま便所にぽいですよ」
「……あんたは少し時と場所と、あと余情を考え発言すると尚いい…」
「すみません、」

恐らく下着も濡れてしまったのか、布一枚隔てて伝わってくる人肌の感触にむずむずしながらも俺は思い切り首筋の匂いを肺に取り入れた。
腰の辺りを少し強めに抱き寄せると、OLさんもそれに応える様に俺の背に腕を回して来た。愛しい、とはきっとこの感情の事を言うのだろう。

「今日は、泊まっていくのだろう?」
「無論、そのつもりですが、」
「そうだな。あんなに長湯して…この様な格好をしておいて、帰るなどと言われたら、どうすればいいか解らぬ」
「ふふ、久し振りの斎藤さんのベッド、くっ付いて寝ようっと」

俺の胸元に頬を摺り寄せるOLさんを見て、今朝方総司が言っていた言葉が頭の中で再生された。

『やっぱりブカブカのシャツ着て“大きいね”とか僕に笑ってる彼女見てると癒されるって言うかさ、苛めたくなるって言うかさぁ…はじめ君もなんか擽られない?』


「苛めたく…は、良く分からぬが、癒されるとはまさにこの事だな、」
「へ?」
「時に、OLさん」
「はい、」

両肩を掴みOLさんと視線を合わすと、風呂上りで何度か拝見した事がある無化粧の幼い瞳が俺を見上げている。それにそっと近付き一度頬に唇を落とすと、擽ったそうに身を捩ったOLさんに耳打ちをした。

「サイズは、どうだ、不便無いか…?」
「え?サイズ?」

少し漂う俺の視線に、首をことんと倒したOLさんは「ああ、これ?」と両手を上げて見せた。
それを視界の隅に置きつつ、総司が「良い」と豪語していた言葉を待つ。恐らくこの後俺が風呂に入ってしまえば、後は脱がすだけ故…今聞いておきたい。ここまで来てしまったらどうしても聞きたかったのだ。

『大きいね、』と。


しかし。


「ああ、斎藤さんってやっぱり他の人に比べると少しサイズ小さめなんですね!わたしでもピッタリでバッチリで、良い匂いしますっ!ご馳走様でした!」
「………………、」



俺は、その言葉と悪びれない笑顔に対して。


「そ、そうか」


としか返事が出来なかった。

明日、店に言ってサイズが大きめのワイシャツでも買うとしようか。趣味では無いが淡い白桃や、俺が着ている真っ白でもいいだろう。
ふらふらと風呂場に向った俺に手を降るOLさんは、「あ、冷蔵庫にあるビール飲んでもいいですか?」と抜かり無い様子で笑っていた。

取り合えず、俺はそれに頷きながらも静かにズボンのポケットからあるモノを取り出し彼女に向けて構えた。

カシャリと、小さな音が鳴り画面に映ったのは


“彼シャツ”でビールを煽る、男らしい姿の愛しい人の姿だった。

「ぷっはぁ!あれ?斎藤さんまだ居たんですか?早く入らないとお湯冷めちゃいますよ?」
「…ああ、行ってくる、」
「行ってらっしゃーい!」


総司には、言えん。






L寸が正解


(へえ、はじめ君良かったじゃない。それで?どうだったの?楽しめた?OLさんちゃん可愛かった?)
(、…枚……、した、)
(え?)
(その後、一回り大き目のワイシャツを三枚購入した、)
(え…………?あっ!)
(………毎朝牛乳も飲みだしたのだ、)
(もう手遅れ……いや、はじめ君僕は応援してるよ、ブフゥッ!)



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