「ひょぉおおっっ!?」
「なまえ…、早く終わらせろ、」
「は、ははははじめさんっ!?」
「……髪にも服にも居酒屋の匂いが染み付いているな……それに煙草の匂いも、」
「あっ、」

するすると服の中で肌を撫でられ思わず背が曲がる。それを追う様にはじめさんも背を曲げ、わたしの髪に鼻を埋めたのが感覚で解った。コトンとテーブルに何か置かれる音がして、片手だけだった彼の手の平がふたつに増え、ゆっくりと肌を撫でながら腹の前に移動する。どうやら持っていたビールを後ろ手で机に置き去ってまでこうしたかったらしい。

あっ、どこ触ってるんですか!!!待ってくださいっ!いつもこんな所でこんな事しないじゃないですかっ!って言うか、わたしも人の事言えませんけど、凄いお酒くさいですはじめさんっ!

「何か、俺に言う事があるのではないか…」
「は、はいっ…ご、ごめんな、さっ!」
「聞こえぬ、」

ぴったりとくっ付いたわたしの背中とはじめさんの胸。
体重を掛けられているから、いつの間にかスポンジを持ったまま流しに枝垂れかかる様に身体を倒してしまっていた。それに加えてわたしは身長が低いから…すっぽりとその腕の中へ収まってしまっている。
「俺とて好きでこれほど飲んだ訳ではないのだが。解らぬか」と、何だかいつものはじめさんらしくない強い物言いに、思わずびくりと反応してしまった。


…でも。
こ、こんなはじめさんも…。ごくり。


「俺の知らぬ者の匂いがする服など、さっさと脱げ…不快だ」
「何を言ってるんですか、ちょ、はじめさん…待って、」
「もうこれ以上待たされては敵わん」

まだ洗い物も途中だし、お風呂にも入れてないし、鞄だって中身を出してもいないのに!
そんなわたしの心情などお構いなしに、器用な手付きで服の釦を外していく旦那様にべろりと首裏を舐められてしまい、ついに身体から力が抜けてしまった。

腕も泡だらけなのにそのままペタンとキッチンマットの上で崩れていると、しゃがみ込んだはじめさんがわたしの肩を引いたらしく視界がぐるりと反転し目の前は彼で一杯になる。
もういつでも寝れる格好で真っ赤な顔をしているはじめさん。そんな彼を涙目で見上げて息を整えていると、ひとつの考えが思い浮かんだ。


「さ、寂しかったんですか…?」
「……………、何故」
「だって…、はじめさんいつもと全然、違う、から」
「………………俺が、」

胸元は肌蹴てしまって、いつもは寝巻きに着替えてからしか脱がされた事がなかったから、何だか恥ずかしかったけれど目の前で更に顔を赤くして視線を泳がせているはじめさんを見たらそんなのはどこかへ吹っ飛んでいってしまった。


「俺が…さ、さみしがるのは…、何かおかしい…か、」
「…え、」
「酒で誤魔化す他なかったのだ、何が可笑しい、」
「はじめ、さん…」


凄く、すっっごく小さな声で信じられない言葉が聞こえて、わたしは思わず口を開けてしまった。
最後にやっと此方に視線を合わせたはじめさんは、そのままわたしの発言権を熱い唇で奪い去り再び背を曲げて服を脱がしに掛かる。
その口付けを受け入れながら、いつもは感じられないゾクゾクとした何かを背中に感じつつ、わたしは頭の中で繰り返し「何これ素敵、何これ素敵」と唱え震えていた。

どうやら、旦那様の新しい一面を垣間見てしまったらしい午前0時。
そしてお風呂にも入れないままわたしはこの後有無を言わさず食されてしまう運命らしい…。いつもはあまり求めてこないはじめさんは「お酒」と「寂しさ」が合さると人が変わってしまう…という事が解った。

でも、そんな旦那様をわたしは…。

「はじめさん、今日はいっぱい愛してください…」
「無論そのつもりだ。…今日は何をしても身に成らなかった故、その分きっちり啼いて貰う、」
「もう昨日ですよ、」
「そうか、」


誰よりも、愛してるんだ。


しかし、ベッドでは無くキッチンで啼かされる日が来るとは思いもよりませんでした。

でも、まあ。
たまには、こんなのもいいかもしれないですね。
はじめさんがどれだけの時間をどんな気持ちで待っていてくれたのかは彼になってみないとわからないけれど、その寂しかったらしい時間を今から二人で存分に埋めましょう。

来週は普段通り、一日中くっついて過ごしましょうね。愛しの旦那様!






一時間につき、1ラウンド

(ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!もうしません許してっ!)
(まだだ、逃げようとしても無駄だ。なまえ)
(せめて一度、お風呂に行かせてくださいっっ!)
(風呂に入った所で意味など成さぬ、)
(いやぁあああああっっ!!!!!!)




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bkm

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