「…ごめん、」
「ううん…いいよ、」
どれくらい時間が経っただろう。
流石の僕もここでヤったりなんてしない。散々触って舐めて…未だ自問自答を繰り返していた僕は、下から聞こえてきたなまえの鼻をすする音で我に返った。
僕の身勝手な行動全てに応えてくれたなまえの服は乱れに乱れて、息は上がってるし薄っすらとしか見えないけどきっと涙目になってると思う。いつの間にか自分の服も着崩れているし、此れじゃあまるで…。
「何だか…強姦してるみたい…」
僕は、何て事をしてしまったんだろう。
「…こんな事するつもりじゃなかったんだけど、」
「いいって…、」
よく見てみたら今だ見下ろされているなまえの身体はそういいつつも僅かに震えていた。
「ごめんね…もう二度と君には近付かないから安心してよ」
「…………、」
「あはは、何か…なまえの反応とか、声とか全部が気持ちよくてさ、抑えられなかったんだ。何でだろう…」
「…………、」
あ、また。
”何でだろう“
責められるのが嫌で、視線を逸らしたまま身体を退けると一人立ち上がり帰る仕度を始める僕。なまえの「分かった」を聞きたくなくて、一刻も早く自分がした事を無かった事にしたくてどうしようも無かった。震える手で髪を掻き揚げながら「じゃあね、」と告げると、携帯も見付からないまま僕は上着を羽織り玄関へと歩いて行く。
あーあ、終わっちゃった。
「……………、は、」
思わず自嘲気味な笑いが零れた。
気付いちゃったんだ。
今更遅いのに。
玄関に立つと、来た時揃えた靴が僕を見上げていて。その隣りに、良く遊ぶ時になまえが履いていた靴が並んでいる。もうこれを履いて、僕の隣りに君が並ぶ事が無くなっちゃうんだ。凄く悲しいけど、自業自得…。止めていた息をゆっくり吐き出すと、僕は一歩踏み出す。
その時だった。
「勝手に一人で完結して帰るなっっ!!」
「え、」
今までずっと小声だったから、突然聞こえてきた声の大きさに思わず目を見開いた。
後ろを振り返ると、小柄なシルエットがこちらを見て震えていた。その声は珍しく怒っている様で、泣いている様で…。
「総司が待っててって言ったんでしょう!?ちゃんと待ってたわたしを置いて行かないでよ!」
「…なまえ」
「総司はいつもそうじゃん!勝手に好き勝手して勝手に人巻き込んで勝手に一人で完結していつも通り!」
「声が大きいよ…それに何言ってるの、」
「だって!!!」
僕が自分勝手なのは今に始まった事じゃないじゃない。
と返そうと口を開いた瞬間、どうやら声に驚き飛び起きたらしい誰かが廊下の先に見える部屋の電気を点けたらしい。
パッと一気に明るくなった視界に映ったのは、ぼろぼろと涙を溢し僕を睨んでいるなまえの赤い顔だった。
「何で気付いてくれないの?何でいつも誤魔化すの?なんで…もー、やだー総司ほんっとやだー!」
「じゃあ何で泣くのさ…」
「そりゃ泣くわ!!!わたし今まですっごい頑張ってたのに!」
「っ、」
どうしたどうした。と後ろから寝ぼけ顔の新八さんや平助くんが覗いているのがなまえ越しに見える。でも僕はそんな事より、前からまるで体当たりをする位の勢いで、僕の胸に飛び込んできたなまえを受け止めるのが精一杯だったんだ。
「総司鈍い、気付け!あほ!鈍感!」
「…今気付いたかも」
「遅いっ!!帰るならわたしも連れて行ってよ!」
「……あんな事した僕でもいいの?」
ぎゅ、と抱き締め返してそう問うと、今までの威勢は何処へ行ったのかポツリと僕に聞こえるくらいの小さい声でこう呟いた。
「やっと…わたしの気持ちに気付いてくれたのかと思ったのよ…」
僕達を茫然と見ていた新八さんと平助くんが、空気を読んだらしい左之さんに寄って部屋に引っ張られていったのを視界に入れながら、僕は彼女の髪に顔を埋めながら頷いた。
「なまえ。これからも僕を待っててくれる?僕も待ってるから」
「…ちゃんとした告白してよね」
「それはどうかなぁ」
携帯は、明日辺り平助くん辺りに届けて貰うとして、今からなまえとまだ明けない空の下、手を繋いで歩いて帰ろうか。
見慣れた靴をお互いに履いて、並んで「疲れたね」って笑いながら。
これからはどこに居たって…、ずっと
僕を待ってて
(このまま僕の家で続きしちゃおうか)
(うわあ…)
(じゃあしない、君が待っててくれたから僕も待てる)
(……………)
(……かも)
(かもかよ!!!)
bkm
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