「……は?」
「……あ、」

どうやら独り言がでかかったのかパチリと開いてしまった目。
細められたままゆっくりとわたしの足から昇ってきた視線が合致した時、わたしは思わず「やばい」と思ってしまった。

だって、この人。

「…あんた、は?」

やっぱり。

「あの、何食べて育ったんですか?」
「は?」

超が付くほどのイケメンだ!!!

うおおおおい、なんだこれーー!なんだこの人ー!ちょっと寝起き感拭えてないけどすっげぇカッコいいじゃん。芸能人並みじゃん。
頭にクエスチョンマークを一杯飛ばしている男の人を、突然の発言でポカン顔させた後我に返ったわたしは、取り合えずどもりながらもことの経緯を説明してみた。怪しいなんて思われたくない。良い事したのに不審者扱いはごめんだ。


「そうか…それはすまなかった。世話を掛けた」
「あーいいですいいです。どうせわたしもボーっと暇潰してた人間なんで」
「少し休息を取るつもりが…そうか。寝てしまっていたのか、」
「今日は日差しが暖かいですからねぇ、仕方ないですよ」

わたしは立ったまま、彼はベンチに腰掛けたまま少しの会話の後徐に腕時計を見た彼が「しまった…」と苦い顔をしたのを見た。
ああ、やっぱり社会人って大変なんだろうなぁ。だって公園で寝ちゃう位に疲れるって事でしょう?大学でも暇さえあれば様々な場所で昼寝ぶっこいてたわたしに勤まる気がしない。

「引きとめて悪かった……、あんたの身形からして、就職活動生か…?」
「あ、はい。今面接終わってちょっと公園で一杯やってたところです」
「一杯…とは、」
「あ、いやいや。なんでもないです、忘れてください」

おっと危ない。わたしイケメンになんて事暴露してんだ。就活生だっつってんでしょ!公園で一杯やるわけないじゃん!
少し不審な顔をしイケメンさんだったけど「ああ、」と返事をした後ゆっくりと立ち上がり、わたしが置いておいた鞄を手に取る。きっとあれだけの書類が入っているんだから重いんだろうそれを軽々と手にした彼は、以外にも小柄だった。でもそれがまた魅力的だとすら思う位綺麗だ。背筋もぴんと伸びて、真っ直ぐ前を向き…無表情だけど、その目は曇り一つない。

「今日は何処を受けたのだ、気に入る会社はあったか?」
「あ、はい…あそこに見える一番大きな会社です」
「………、」
「あそこ凄く魅力的で。働くならあんな会社がいいなぁってずっと思ってて」
「…そうか、」

指をさして先程行ってきた会社の事を教えると、少し驚いた様に目を見開いた後何だか嬉しそうに笑ったイケメンさん。
あ、やば。笑うともっとやばい。

「受かると、いいな」
「まぁ、ちょっと自信は無いですけど…でもやれる事はやったんで」
「…あんたが居たら、社内も明るくなりそうだ」
「そうですか?えへへ、お世辞でも嬉しいです。それに何だか貴方にそう言って貰えると自信が沸いてきますね!なんでだろう」
「…あいにく、俺は世辞が苦手だ」
「…あ、う。はい、ありがとうございます…」

再び優しい顔で笑いかけてくれたイケメンさん。
その言葉と表情にノックアウトされかかっていたわたしの顔も真っ赤だ。まったくこれが天然と言うヤツか…。す、末恐ろしい…。

「では、俺はこれで」
「あ、こちらこそありがとうございました!」

ずっと歩き続けた足はハイヒールにしっかりと納まって、わたしをここまで導いてくれた。
最初は痛い痛いと靴擦れだらけで文句ばかり言っていたわたしだけど、それでも止まらずこうしてまた一歩を踏み出そうと地に着いている。そしてそれは今。
この人の言葉でやっと力を抜き、わたしをまた高みに導こうと地を踏み締める。

こんな人と同じ会社だったらもっともっと楽しい毎日になるだろう。あの会社にもこんな素敵な人が居たらいいな。

ペコリと頭を下げたわたしを見て、もう一度微笑んでくれたイケメンさんは「そうだ」と一つ思い出した様にスーツのポケットを探り、わたしに向けてその何かを掴んだらしい手を真っ直ぐと差し出した。

「なんですか?」
「……楽しみにしている、」
「へ?」

その意味深な言葉と共に、皿にしたわたしの手の平へ落ちてきたのは一つの飴玉だった。
それに驚いて顔を上げた時には既にイケメンさんの姿は後ろ姿で。公園の入り口に向って凛と背筋を伸ばし少し足早に歩いて行く。

やっぱり、社会人は大変だ…。


「よくわかんないけど、ラッキー」


彼らしい薄荷の飴を空に翳しながら笑うと、自分も入り口へ歩き出す。
今日は大人しく家で飲もうか。何だか静かに過ごしたい気分になった。社会人になるんだから少しは落ち着かないとねぇ…あの人みたいに。

スーツのポケットへ入れた飴に嬉しくなって、ムフ、と一つ気持ち悪い笑いを溢すと軽くなった足でまた一歩踏み出した。


「あーっ、ビール飲みたいっ!!!」


そう零して見上げた太陽が何だか笑っている様に見えた。





episode:ゼロ

(ねぇ、OLさん)
(なに母さん?)
(あんた今日クリーニングから帰って来たスーツのポケットからどっろどろの飴出てきたわよ)
(げぇっ!?)
(明日から独り暮らしでしょう!?酒ばっか飲んでないでしっかりしなさいっ!)
(げぇええっ!!!)




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bkm

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