分厚い雲は未だ辺りをどっぷりと闇に誘う。
前を向いても横を向いても下を向いても上を向いても、あるのは黒。黒、黒、黒だ。

人間は皆馬鹿者しかいねぇ。
鬼よりずっと命燃やして世を駆け抜けてるっつーのに。何を焦ってんだか、何を考えてんだか…町ひとつ焼き払うのにも躊躇しねぇ。
だから俺は気に入らねぇんだ。あの先に逝っちまった馬鹿も。あの真っ直ぐ俺に物言う赤毛の馬鹿も。

「いつか…」
「あァ?」
「いつか、またこの町にも笑い声が響くだろうか、」
「………お前、」
「いつか…あの時の様に皆が笑って暮らせる日が来るのだろうか、」

今じゃただの焼け野原だった町跡は、以前の様な活気を取り戻すかって?んなもん知らねえェよ…。こいつは、何を言ってんだ。これじゃあ、まるで。

「わたしは、この景色に映る人間を好いていた」
「…、」
「だから、悲しい」

銃を向けた腕をそのままに、再び燃えかすみたいな黒を眺めたみょうじは…暗くて良く見えなかったが涙を流している様だった。
そこで興が冷めちまった俺は、舌打ちをして腕を下ろす。もう直ぐ朝が来る。

「不知火。わたしはあんたには着いて行かない」
「そうかよ」
「うん。だからあんたはあんたの好きに生きればいい」
「…言われなくても、んなもん」
「でも、ちゃんと再会しましょう…いつか、何処かの…日の下で」


その時、ゆっくりと月の端が現れて俺達を再び灯りが照らし出す。
もう此方に銃口を向けていないみょうじは、微かだが俺を見て微笑んでいた。

悲しそうに、嬉しそうに。


「そーだな。まァ、俺等が安易に死なねぇのは当然の事だからな、その内何処かでふらっと会うかもしんねェな」
「ああ。そうだといい」

同時に銃を仕舞った俺は、何故かあの男…高杉と話している時に感じた様な、居心地の良い空気を思い出した。
しょっちゅう言い合いには成ったが、それでも俺が会うのを止めなかったのはその人柄と強さに少しでも想いが含まれていたからなんだろうな。いや、変な意味じゃなくて。
くるりと踵を返すと、隣りも俺とは真逆の方角に身体を返したのが分かった。

あ。そうか。


「おい、なまえ!」
「…なんだ、不知火」


暗くても良い事があらァ。


「人間も捨てたもんじゃねーぞっ!少なくとも俺ァそう言う男を一人知ってる!」
「ああ、あの赤毛………。いや、そうなのか。それは知らなかった」
「てめェ、やっぱり撃つ」


何も、常闇の地上を照らすのはお月さんだけじゃねぇ。


「まァ機会が会ったら、会いに来いっ!じゃあなっ!」
「ああ、またな。不知火」


ほら。よく見りゃ暗くも何ともねぇじゃねぇか。

だって、星が出てんだろ。





星元の誓約

(お前、何でこっちに向けて撃つんだよ!馬鹿かっ!!!)
(銃は扱いが難しくてな、すまん)
(って言った端から撃ってくんじゃねェ!!!)
(すまん。あ、手が滑った)

(天霧。煩くて構わん…。不知火となまえを庭から追い出せ)
(承知です。風間)





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