きっと、そのメールを呼んだんだろう。弾かれるように顔を上げたなまえちゃんは、目一杯口を開けていて手元のスマホを握っていた手から力が抜けていくのが見て取れた。
「ね?」と言う意味を込めて、首を傾げておねだりして見ると、一瞬息を飲んでからやっぱり顔を真っ赤にして俯いてしまったなまえちゃん。

やっぱり駄目か。とちょっとだけ悲しくなった時だった。

「わ、私は…ですね、」
「…………」
「男性を下の名前で呼んだ事が、今までで、その…一度も、無くて…」
「…………、」
「本当は貴方の事だって、その…名前で呼びたいんです。けど、」
「……………、」
「今でも、夢見たいで…貴方が私の恋人だなんて、未だに信じられない位の奇跡で、ちょっと、怖気づいてました」

恥ずかしいんだろうなって言うのは薄々気付いていたけど…、夢見たいって。僕がキミと付き合っている事が?奇跡だって?

何それ、


「最近はやっと、OLさんちゃんの前でだったら、呼べる様になってきて、」
「…………、」
「まだ、ちょっと恥ずかしいですけど、あ、あの…」


凄く、うれしい。



「これからは…その、総司さん、って呼び、」
「……っ!」


呼びますね。…きっとそう言おうと思ったんだと思う。でも、僕は「総司さん」の「そ」の部分で既に一歩足が出てて、「呼び」の時点で両手を伸ばしてなまえちゃんを腕の中に閉じ込めていた。小さな悲鳴を零して、僕の体重の所為で後ろに背を曲げたなまえちゃんは、スマホを持ちっ放しの手で僕を抱き返しながら「あ、あの!」とうろたえていた。

「もっと、」
「え?」
「なまえちゃん、もっと呼んでよ」
「そ、総司さん、」
「もっと。全然足りないよ、ほら」
「総司さんっ!」
「…………、」

お仕置きのつもりでこんな所に連れ込んだのになぁ。
これじゃあ、まるで


「っ!総司さんっ!だ、大好きですっ!!!」


僕の方が、耐えられそうに無い。

素なんだろうか。ちょっと訛りが滲んだ「大好きです」に、僕は満足そうに顔を緩めた。
地に付いていた両足が腰から溶けていっちゃいそうな感覚を感じて、僕はなまえちゃんの肩口にぎゅうと自分の唇を押し付けて笑った。


「うん、僕も、大好き」


その言葉になまえちゃんが小さく笑を零して僕の頭をゆっくり撫でた。
その手の平はとても、春のように暖かかった。




ぽかぽかと


(これからはどこでも名前呼び、じゃないとまたお仕置きだよ)
(え、お、お仕置きだったんですか…さっきの、)
(なぁに。OLさんちゃんみたいなのが好みなの?僕は別にそれでもいいけど)
(いやですっ!!!!!)
(うん、じゃあしない。ねぇ、)
(はい?)

(もう、いっかい)



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