「俺は今から風紀委員解散させてくるから、終わったら適当に戸締りして帰っていいからな」
「はい、分かりました」
「もう俺の授業で寝るなんて真似するんじゃねぇぞ」
「う、はあい…」

放課後、案の定総司から「用事があるから帰ったら電話するね」とメールが入っていた。何度も廊下で擦れ違ったのに、結局この連絡事項を受け取るのは鼓膜じゃなくて、この手元の無機物なんだ。お友達たくさん居たもん。しょうがないよ。とただただ自分に言い聞かせて、わたしは土方先生に言い渡されたお手伝いと言う名の罰を受ける為に一階の資料室へときていた。
部活をする生徒の声や、廊下を歩く生徒の声。陽が射すだけで埃が舞っているのが分かるこの室内は、校内のどの場所より静かだった。今日は考えない様にしよう。帰ったら電話を待って、そして安心する為に「好き」を一杯伝えよう。そしてまた泣きながら眠ろう。

授業で使ったらしい資料本を棚に戻して一つ溜め息を付いた時だった。

「………で、…ずっと、私、」
「…それ……じゃない、」

天井まである一つの窓の外から、聞き慣れた声が聞こえてピクリと肩を上げ、わたしは思わず身体を固め立ち尽くした。思わず息を止めてしまった所為で、さっきよりずっと大きく聞こえてくるのは、うちのクラスの総司を好きだと言っていた子の声と、紛れも無い総司の声だ。

本当に、告白しに行ったんだ。凄いなぁ。

まず一番に浮かんだのはこの言葉だった。わたしはずっとうじうじ悩んで、悩んでやっと言えたのに。この資料室の裏は普段人気も無い校舎裏だから核心があった。今わたしの恋人は女の子に告白を受けている。

「沖田君、優しいし…。私実は、ずっと前からね、」
「うん」
「ずっと前から、その…」

そっと窓辺へ移動するとカーテンの端を掴んで身を隠す。換気の為にと少しだけ開けていた窓の外からは、今でも心地いい風が吹き込んで辺りの埃を浮かせ日差しに照らされたソレがキラキラとわたしの視界で踊ってるけど、その幻想的な空間と自分の今置かれている状況がミスマッチ過ぎて、その場にスルスルと座り込んでしまった。
聞きたくなんてないのに。知りたくなんて無いのに耳を塞がない自分が辛くて。膝に頭を埋めると、目の前にあったスカートの上にぽたりと一つ雫が落ちてきた。

同時に、聞こえた可愛い声。

「沖田君が…好きです、」

ずる、と鼻を啜るわたしは心の中で学校でも話せる彼女を羨ましいと思っていた。どうしてそれ以上を望むんだろうって。話せるだけでもいいじゃないか。わたしなんてソレすら出来ないんだぞ。実際「付き合ってる」けど、その言葉に縋るしか出来ないわたしは、ただの友人にもなれていないんじゃないだろうか。


「僕はね、」

流れる涙をそのままにじっと蹲っていると、背後から大好きで大好きで二十四時間ずっと聞いて居たくなる様な声が聞こえてくる。なぞる様に、いつもゆっくり話す総司だけど、その声は力強くわたしが耳を済ませなくても十分室内に広がるくらい大きかった。

「結構嫉妬深いし、好きになったらずっと一緒に居たいし、ひと時だって離れて居たくない性質なんだ」
「は、はい…っ」

やっぱりそうだったんだ。
わたしと一緒に居てくれないのは、好きになって居ない証拠だったんだ。

「逢えば直ぐ閉じ込めたくなるし、誰にも見せたくないし、目の前に好きな子が居たりすると上手く話せなくなっちゃうし、」
「そ、そうなんだ…、」

へぇ。
意外、だなぁ。ずっと見てたのに、全然知らなかったや。

「僕はずっと死ぬまでこんなんだからさ。一緒に居ると嫌でもその子が目立っちゃうでしょう?そんな事になったら、ほら、いつどこでどんな虫が付くかも分からない」
「わ、私は全然そんな事気にしな、」
「だから学校ですれ違っても声掛けられないし、辛い思いさせちゃうんじゃないかってずっと思ってて、」
「え…っと、沖田君?」

何。
待って、

「それなのに、自分から告白する勇気も無くて、きっとすごい不安にさせてると思うんだ、話しかけて貰えないから嫌われてるんじゃないのかってね…」
「待ってよ沖田君っ、さっきから何の話を…して、」

それって、



「ねえ、なまえ。君は、そんな風に感じたりしてる?」



泣き顔のまま思い切りカーテンをどけて窓を開けると、目の前の女の子じゃなくて、少し上を向きわたしを見上げている総司が居て。
「もしそうだとしたら誤解だよ」なんて言われてしまえば、わたしの頬はもっともっと涙で濡れていく。
「訳分かんないっ!」と顔を真っ赤にしたクラスメイトはそのままわたしと総司から逃げるように走り去っていく。その姿を目で追う事もしない総司は、一歩また一歩とわたしに近付き、両手を広げて「遅くなったね、一緒に帰ろうか」といつも通りにっこり笑ってくれた。

「嫌われてるかと、おも…っ、」
「やっぱり?僕もね、ちょっと動揺してて、こういうのなんて言うのかな…」
「は、恥ずかしかったとか?照れてたとか…?」

総司の手を取って、真っ赤な目をそのままに首をかしげてみると少しの沈黙の後「うーん、」と唸った彼をじっと見下ろす。その姿が何だか可愛くて、格好良くてわたしは窓辺に掛けてあった鞄を掴むと、窓の縁に足をかけ

窓を飛び越え総司に飛びついた。


「ちょっと、君仮にも女の子でしょ…」
「いいの、今は受け止めて欲しかったの」

ちゃんと受け止めてくれた総司は、わたしの言葉に「じゃあちゃんと出来たね、僕」と笑って見せると、そのままぎゅうと抱き締めてくれた。

「さっきの答え、正解かもしれないや」
「え?」
「多分照れてたんじゃないかなぁ、ほら良く言うでしょ?本当に好き過ぎると顔も見れないって」


少し困った様に笑った総司は、ぽかんと口を開けているわたしの頬に唇を当てて「今ちゃんと受け止めてあげたから、明日からはこれ以上に僕を受け止めてよね、なまえ」と、学校の中で甘い言葉を投げてくれた。

「改めてよしくね。さっき言った事本当だから。嫉妬深いし、ずっとくっ付いて離れないよ。イヤだって言われてももう逃げられない。それでもいい?」
「望むところですっ!」
「あっははは、言ったね。頼もしいや」


手を繋いで歩き出したわたし達は、この日、
やっと本当の恋人になれたみたいです。






放課後カレシ


(あ、でも…あの子よかったのかな…)
(うん、もうこうでもしなきゃ、僕は一歩踏み出せないと思ったからね。資料室に君が居るのも知ってたし。あの場所指定したの僕だし)
(うわぁ…、嬉しいけど、複雑…。ちょっと酷くない?)
(そんな酷い奴を飽きもせずずっと見ていたのは誰?)
(わたし…だ、)
(でしょう)



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