「なまえちゃーん、また…一緒に、のもう、ね」
「あれ、OLさんちゃん寝ちゃうの?大丈夫?」
「んー…、だいじょ、ぶ、」

いつの間にかふわふわとした気持ち良さに身を任せてしまっていたわたしは、机に突っ伏すみたいに崩れ落ちて、重かった瞼を閉じる。聞こえてくるなまえちゃんと沖田さんの会話がぼんやりと篭った様に聞こえてきて、更に眠気を誘う。ああ、わたしはいつもこうやって帰宅途中に路上で力尽きたりするんだった…。いけない、斎藤さんに迷惑が掛かっちゃう…。

そうは思えど、一日働いた疲労感とお酒の気持ちよさには勝てない。

「…なまえ、今日は楽しかった?」
「はい。凄く楽しかったし、とても素敵な方々とお知り合いになれました。総司さん、ありがとうございます」
「うん。君が楽しかったなら…僕も嬉しい、」
「ふふ、総司さんの周りの方は皆さん素敵な方ばかりで…、私もこんな日溜りみたいな場所に入れたらなって…ずっと思ってました、」
「…………そ、」

ああ、いいなぁ。
こんな関係に憧れちゃう。もし斎藤さんとそう言う風になったら…わたしも彼女みたいにいつも太陽みたいに笑って…純粋に…、そして真っ直ぐに「好き」を伝えられる女の子になりたい。

「…何だか今日は苛めたい気分。この後どうしたい?言ってみてよ」
「あ、駄目です総司さん…OLさんちゃん居ますし、さ、サトウさんが戻ってきますっ、」
「大丈夫。OLさんちゃんは寝ちゃってるし、サトウさんはちゃんと空気を読める人間だから、ね」
「…ん、」


ん…?何だか、会話が…。

その時、ガバッとわたしの腕を引っ掴んだ手の平の感覚と、反動で無理矢理床に着いた足の裏と、一気に覚醒するわたしの頭。
そのまま引っ張られて、訳も分からない内にわたしはコートを頭から被せられていた。生地の隙間から見えたのは、まだスーツ姿の斎藤さんの足元で。


「いいか!あんた達!俺は今からOLさんを送っていく!俺が戻ってくるまでにさっさと自分達の巣へ帰れっ!!鍵はそのままでいい、片付けもするな何も触れるな!いいな!」
「あ、あれ?斎藤さんっ!?」

「はーい、今日はありがとうね。サトウはじめ君」
「サトウさん、今日は本当にありがとうございました!OLさんちゃんまたね!メールするね!」
「え?え?あ、はい!またね!」

そのままの状態でずかずかと荒い足音を響かせて廊下を進む斎藤さんの顔は見えなかったけれど、わたしには何と無くどんな顔をしているのか分かってしまった。



きっと、げんなりしてる。


「ふふ、幸せそうでしたね、沖田さんもなまえちゃんも」
「ああ。だが………もう二度とごめんだ、」

玄関の扉を開けると、やっぱり冷たい北風がわたし達を迎えてくれた。


「…だが、総司に対する彼女の真っ直ぐな眼は少し羨ましくも思った」
「あ、それ、わたしも思いました!」
「…あんたも真っ直ぐだがな、」
「そ、そうですか…、ありがとうございます、サトウさん」
「斎藤だ」





色々な想いの伝え方があってもいいじゃない

(総司さん、は、早く出ないとっ、またサトウさんに怒られますっ!)
(大丈夫、あと二時間は帰って来ないから。帰りはタクシーだと思うし)
(そう言う問題じゃありませんっ!ほら、行きましょうっ!)
(君は変なところでしっかりしてるんだから、)
(ほ、誉められたっ!たぎ、…んんっ!!!)
(じゃあ、続きは僕の家に着いてからね)




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