じわりと揺れる視界。

大好きで大好きでしょうがない彼の顔が滲んで見えなくなる。

「ご、ごめんなさい…っ、やだ、よ…、原田さん…っ、わたし頑張るから、ちゃんと原田さんの好みの女の子に、なっ、なるから…」

捨てないで。

そう嗚咽交じりに告げようと口を開いた時だった。
一瞬、涙を拭われたと思ったら、次に感じたのは唇に当たる柔らかいもの。
それは原田さんの唇で、突然のそのキスに戸惑い目を見開く事しか出来なかった。わたしは嫌われたんじゃ。反射的に手を伸ばし、いつも捲くっているワイシャツの袖に縋りつくと凄く近くから、こんな言葉が聞こえてきた。

「逆だ、逆」
「…へ?」

その言葉と一緒に感じたのは、大好きな匂いと強く逞しい腕が背に周る感覚。胸元に押し付けられたわたしの頬は、その状況を脳より先に理解して熱を上げた。

「本当は、夜に言うつもりだったんだが、そんな泣き顔見ちまったら今言うしかねぇだろ」
「…っ、は、原田さ、」
「俺はもうお前のこと独り占めしようと思う」
「え?……ええええ!?」
「周りの奴等に隠したりするのが億劫になったとかじゃない、ちゃんと其処に俺の下心がある」
「し、下心っ!?」

一体何を言っているんだ。この人は。
何でそんな真面目な顔で、頬染めて、そんな事を言い出したんだ。

ぽかんと口を開けて、ずっと頬をシャツに埋めていると少しだけトーンを落とした言葉の追撃。その破壊力は、容易く間にある分厚い壁に穴を開けてしまったんだ。


「俺と一緒にならねぇか?いや、なってくれ。俺の…俺だけのモンに…。どうだ?なまえ」
「っ、」
「それなら、さっきみたいによぉ…あんな悲しい顔させたりなんざしねぇ」
「…ふ、うっ、でもわたし、可愛くないし、素直じゃないし…」
「何言ってんだ。それを含めてお前だろ?」



全部合さってこそ、俺が惚れたお前だ。


「どうだ?」

珍しく緊張気味に髪を乱した原田さんは、そわそわと落ち着かない様子であっちを見たりこっちを見たりしている。その度に片方だけ絡められた指先から鼓動が感じられて、思わず笑ってしまった。

今までよりずっと優しいキスをして、
今までよりずっと甘い笑顔で「愛してる」と囁く原田さんは、
今までよりずっと嬉しそうな笑顔で。

「わたしなんかで、よければ…っ、その、お願いします」
「何だ何だ…。結局最後まで言わせるのか…?いいか、良く聞けよ。一度しか言わねえからな。なまえ、」


壊れた壁の外側の世界で…わたしに、





「お前がいいんだよ」と言った




(おーい!就業後早々すまねぇが全員ちゅもーくっ!)
(え、え!?原田さん、何を…っ!?)
(えー突然だが、俺等結婚するからよっ!!)

(え、ちょ、ええええええええええええ!?)


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