「………平助くん、帰りなら一緒に」
「う、」
「…う?」
歩み寄ってきた平助くんに「帰ろうか」と促す僕の耳に、後ろから篭った様な呻き声が聞こえてきた。泣く程だったんだ。そんなに嫌いなの?仮にも「好いてる」だの、僕の事を「知りたい」だの散々言ってきた癖に。噂の人斬り集団だって知った途端、そんな…。
あれ、なんだろう。
何なんだろう…さっきからずっとちくちくしてる場所は。
「沖田さんが、」
「なあに、大丈夫だよ。もう此処へは」
「沖田さんが…っ、」
ぼろぼろと涙を零して僕の名前を連呼しているなまえちゃんと、それを見て言葉を失ってる平助くんと、彼女に背を向けて眉間に皺を寄せている僕。
次の瞬間、突然熱の篭められた二つの手の平が僕の冷え切った右手を取った。
「沖田さんがわたしの名前全部覚えてくれてたっ!!!」
「「………はあ!?」」
はらはらと涙を零してそう言い放ったなまえちゃんは「嬉しいです!」と僕の手の平に額を寄せてそう苦しそうに笑っていた。
何、この子。
思わずひっくり返った声を出した平助くんも、余りの勢いに何も言えなくなっている。少なからず興味を持っていたらしいなまえちゃんの突然の号泣と可笑しな発言に、今は若干引き気味だった。
僕も固まったままなまえちゃんのつむじを見下ろして口を開けていたけど、いつの間にか「嬉しい」のその一言に寄って、身体に感じていたちくちくと痛む感覚は消え失せていたんだ。
「僕が新選組だって知って、幻滅したんじゃ…ないの?」
「え?何でですか?格好いいじゃ無いですか。それにどんな仕事してても沖田さんは沖田さんでしょう?あ、って言うか何のお勤めしているか知れました!加えて嬉しいです!どうしましょう!」
「……………、」
「オレ眼中に無いじゃん…」
佇む僕達を知ってか知らぬか、じたばたとその場で悶えているなまえちゃんを、
「ねえ、なまえちゃん…」
「はい?」
僕はこの時初めて、
「また、次の非番の日にさ、」
可愛いと思ったんだ。
「逢いに来てもいいかな…」
でも、もう誰にも見せたくないからさ、
「はい!お待ちしております!」
だから、僕ときみとで、
お気に入りの場所を探そうよ
(なあなあ、あの子さあ)
(あげないよ)
(へ?)
(平助くんには、あげないよ)
(…は、はい)
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