「OLさん、あんたに此れを、見せたかった…」


そして、一時間ぶりの開眼に若干もたつきを見せたわたしの視界には何とも言えない景色が飛び込んできた。目の前にはあまり広くは無い湖と、


「わ、…すっご、い」
「見事だろう」

それを取り囲むように広がっている、桜の木。


もう陽はとっぷりと落ちているから辺りは暗いんだけれど、ぽつぽつと遠くの方に見える街灯と、頭上の月明かり。
ゆらゆらと湖面に浮かんでいる月が反射をして、桜をライトアップさせていた。

思わず言葉を失ったわたしと、目隠しをポケットにしまい微笑んでいる斎藤さんの満足そうな笑みだけが、ここにあった。
わたしが立っている頭上にも見事に満開を迎えた桜が一面に広がっているし、続く桜の薄いピンクがずっと遠くまで続いている。これ程見事なものは都内じゃ見れないだろう。周りには民家などは見当たらないし、空だってずっと広い。これを、わたしに…見せる為に車まで用意してくれていただなんて。

「斎藤さん、綺麗…。ありがとうございます、本当に嬉しい」
「そうか。何よりだ。俺とて目隠しはどうかと思ったが、ここに来るまでにも桜の木は何本もあったからな、どうせならこの見事な一面桜を一番に見せたかったのだ。」
「素敵、一週間分、ううん。一か月分の疲れが吹っ飛びました、」
「よかった…。俺もあんたと…OLさんと一番に花見が出来た。ありがとう、礼を言う」
「っ、は、はい」

そっと取られた手の平と、絡む指にひらひらと落ちてきた桜の花弁がそっと掠めていった。


今まで生きて来て見た

都会にあるライトアップされた桜より、

皆でわいわいと美味しいお酒を飲みながら見上げる散り桜より


「…………何か、涙出てきた、」
「あんたは直ぐに泣くな。滲んでは勿体無いぞ」


斎藤さんの隣りで見る桜が、一番綺麗だった。


「その…気に入ったのなら、来年も、連れて行く故…」
「はい、今度は目隠し無しでお願いしますね」
「そうだな、では、一時間耐えたあんたにご褒美を、」
「え?」


その手には、ビールが一本握られていた。





花より貴方。…よりビール

(うっま!夜桜と斎藤さんとビールうっっま!!!!)
(俺は運転があるが、あんたは好きなだけ堪能するといい。俺のことは気にするな)
(はい!でも、ここって何処なんですか?なんで人居ないんですか?絶好のお花見スポットじゃないですか)
(大分外れだからな、俺とOLさんだけが知っている。それでいいでは無いか)
(は、はい…っ!)


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