訓練
とある日の昼下がりのグラウンドにて、苗字は1年生の訓練に付き合っていた。彼女は額にうっすらと汗を浮かべながら、久しぶりの組手を楽しんでいる。釘崎と伏黒を難なく投げた彼女であったが、最後の相手である虎杖に苦戦している最中だ。釘崎と伏黒は階段に腰掛けて、悔しさ半分、驚き半分で組手を眺めていた。隣には人数分のペットボトルが置いてあり、日光を反射させている。
虎杖は前の2人よりも近接戦が得意な様で、苗字を押していた。互いに息が上がってきたところで、虎杖の手が苗字の腕を掴み、背中に回して固定した。

「おわっ」
「ん! 俺の勝ち!」
「負けちゃったかー」

腕を解放して貰うと、苗字は残念そうに言った。投げられずに固定されたというのも手加減をされたみたいで悔しい。見ていた釘崎が水のペットボトルを差し出した。

「名前さん、連続でお疲れ様です!」
「ありがとう。野薔薇ちゃんの動き良かったよ。時々真希ちゃんと練習してるでしょ?」
「そうなんですよ、交流会の時からよく相手してもらってて」
「交流会かあ。今年は出られなかったな。東堂君には会った?強かったでしょ」
「あー会いましたよ。どっかのバカは親友になりました」
「ちょっ、俺はなったつもりないって!」

慌てる虎杖を見て苗字は笑う。東堂に好きなタイプを聞かれて仲良くなったのだろうか、なんて思いながらペットボトルに口をつける。しかし、そこで違和感に気づいた。

「あれ、私こんなに残り少なかったっけ」

階段を見るとペットボトルがあと3本。普通のスポドリは虎杖、カロリーオフのスポドリが釘崎。残りは水のボトルで苗字が今持っているものと同じパッケージ。いち早く気づいた伏黒がぎょっとして釘崎に言った。

「おい、釘崎。どっち側の水取って苗字先輩に渡した?」
「...手前に置いてあった方」
「...それ俺のじゃねえか」
「ごめーん!!」

呆れる伏黒に対して、釘崎は両手を合わせて声をあげる。一方、苗字は後輩男子に迷惑をかけてしまったと申し訳ない気持ちになった。

「ご、ごめん伏黒君! 代わりに新しい奢るから」
「あ、いえ、気を使わなくても」
「え、このペットボトル返した方がいい? いや私が全部飲んだ方がいいか!?」
「落ち着いてください」

だんだんパニックになる苗字と冷静な伏黒を見て、原因である釘崎が呟いた。

「ムッツリのくせに間接キスは気にしないのね、あのウニ頭」
「いや、平気なフリなんじゃねえのアレ」

釘崎の隣にいた虎杖が答える。最終的に互いに謝り合っている2人を見て笑っていると、後ろから声がかかった。

「お、みんな揃って訓練か。感心感心」
「五条先生こんちはー。どしたの?」

虎杖が元気に挨拶する。声に気づいたのか、伏黒と苗字は謝罪合戦を中断し、五条を見る。

「ちょっと任務が入ってね。1年生トリオと名前で行ってきて欲しいんだ」

彼は手に持っていた紙を皆の前でヒラヒラと見せつけた。


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