真夜中
真夜中の寮の共用スペースに窓から満月の光が差し込む中、伏黒は自販機の前に立っていた。派遣された任務が先程終わったばかりで、なかなか寝付くことが出来なかったのだ。釘崎や虎杖は今頃布団の中だろう、と気楽な同級生のことを思い出しながら水を購入した。

部屋へ戻る途中、前足を引きずるように歩く奇妙な獣を見つけた。大きさは玉犬より少し大きいくらいだ。狐のような生き物は色素の薄い尻尾を9本揺らしながら、寮の廊下に繋がるドアを体で押して開けようとしている。高専内では見たことが無いが、関係者の式神か呪骸だろうか。敵意はない様なので、伏黒は獣の代わりにドアを開けてやった。すると獣は驚いたように顔をあげた。伏黒と目が合うと会釈をして廊下へ入ろうとしたが、引きずっている前足が気になったので思わず抱き上げてしまった。

「俺の部屋で手当してやるから」

突然のことに体を強ばらせる獣を安心させるように声をかけた。腕の中で抵抗しない獣を見て、肯定と捉えた伏黒はそのまま部屋へと向かった。

伏黒は自室のベッドの上に獣をそっと下ろしてやり、簡易的な手当を始めた。毛並みに隠れて分からなかったが、よく見ると体の随所に血が滲んでいる。どこからやってきたのかは謎だが余計に放っておけなくなった。濡れたタオルで丁寧に拭いてやりながら声をかける。

「明日家入さんに診てもらうか」

言葉を理解しているように獣は頷いた。一通り作業が終わったあと、怪我をしている獣を床に寝かせるのは気が引けたため、伏黒はそのままベッドに横になった。獣は初めは遠慮している素振りを見せたが、余程疲れていたのかすぐに寝てしまった。伏黒も撫でていた手を止め、ゆっくりと目を閉じた。


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