旅に出る前の時と同じようにここはただ静かだ。城下町の喧騒も聞こえず、まるでこの場所だけ世界から切り離されたかのような感覚さえする。

「………」

終わった、と思った。
ハイラルも一周し、どこにも彼の後ろ姿を見つけることができなかった。
時の神殿もあの時のまま沈黙し続けている。

「………っ」

彼がいなくなった時にさえ流れなかった涙はとうとう限界を迎えたようで。
思えば彼の前で泣いたことはなかったが、もしそうなったらどうやって彼は涙を拭ってくれただろうか。
ごしごしと袖で乱暴に拭い、ハイラル城に行こうと時の扉に背を向ける。


その瞬間、私は光に包まれた。


周りは白く何も見えない。自分が立っているのか浮いているのかさえ分からない。
そんな中、目の前でさらに光が集まってゆく。
呆然とそれを見つめ続け、やがてそれは見知った姿をとった。

「………」

彼は少し申し訳なさそうに笑っている。
私も彼も、口を開かないし開けない。
やがて彼が目の前にやってきて手袋をつけた大きな手で私の涙の跡をなぞった。



「なまえ」



それが合図だったのか、私は彼にしがみ付くように抱きついた。
さっき止まったはずの涙も再び溢れてくる。
いつも彼からしていた森の匂いが、その涙の後押しをしている。

「なまえ…」

もう一度名前を呼ばれて、彼の眩しい金の髪と青い瞳を視界に映す。



「リンク…!」



リンクが顔を綻ばせて笑う。
私はそんなリンクにひとつ、キスをした。




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