「なまえなまえ!」
「お前は、少しぐらい、静かにできないのか!!」
仕事でトアル村に視察に来たはいいが、やはりというか何というかリンクに見つかってしまった。
いつもの緑の衣ではなく、牧童の服を着ているリンクはどこか幼く見える。
まあ年下なのだから当たり前だけれど。
「どうしたの俺に会いに」「来るわけないだろ。ゼルダに頼まれて視察だよ」
べたべたと引っ付いてくるリンクを剥がそうと奮闘するが、トアル山羊を受け止めるほどの力に敵うはずもなく、早々に諦めた。
だからと言ってこのままでは視察どころじゃない。
一応仕事で来ているのだから何とかしなければ。
「こら、俺は仕事で来てるんだからな。離れなさい」
「えぇー」
不満げな声をあげるリンクは尚も離れる気配がない。というか村の人に見つかったらどうするつもりなんだ!
「じゃあ抱きしめてくれたら仕方がないから離れる」
「仕方がないじゃねえだろ。こっちは仕事なんだよ!」
けれどいくら言ったところでリンクが離さないのは分かっている。
(仕方ない…!)
村の人に見つかって気まずいのはお前の方だからな!
心中で言い訳をして、リンクをそんなに強くない力で抱きしめた。
しかし、
(……?)
当の本人はぴくりとも動かない。
不思議に思って目線を向けると、赤く色づいた長耳が映った。
これは、もしかして、照れているのか…?
リンクにも年相応にかわいいところがあるようだ。
あの普段の行動からは考えられないけれども。
カサッ
そんなことをしていると、背後から草を踏む音が聞こえる。
慌てて腕を離し振り返ると女の子がいた。
その子は目が合うと顔を赤くし、弾かれたように走り去って行った。
「いっ…今の、は…」
「イリア。俺の幼なじみだよ」
いつの間にか正気に戻ったらしいリンクは、後ろから抱き着きながら何でもないことのように言う。
「……………」
ああ、もう叫ぶ気も起きない。
目撃された決定的瞬間
(もういい帰る…)(えー!帰っちゃうのー?)