偽りは生きる上での必要事項だという証明をここへ
太い枝の上に立ち、目を閉じる。
耳に意識を集中させると、自分の呼吸音、木の葉のこすれる音、風の吹く音。
そんな中にこの森にふさわしくない機械音が微かに鼓膜を震わせた。
(右・・・)
音の方へ向かうと巨人を模したと思われる大きな木の模型が立てられていた。
しかし同時に後ろからガスを吹かす音が届く。
そこからは再び体が勝手に動いた。
右手の起動装置に取り付けられたブレードを思いっきり上方へ放り投げ、急いでブレードを付け直し一気に巨人のうなじ部分へ切り込みを入れる。
後ろでエレンくんの「あっ」という声が聞こえた。
「さっき、どうして刃を投げた・・・んですか?」
エルヴィンさん達の所に戻ってきて、エレンくんは小首を傾げて言った。
「人間って、どうしても早いものを目で追う習性があるの。しかもそれが自分にとって危険なものだと認識してしまえば、当然その危険を回避しようと体の動きが鈍る・・・」
「なるほど・・・」
エルヴィンさんは少し考えるように顎に手を当て、一つ頷いた。
「では、改めてなまえを調査兵団に迎えよう。所属班や細かい適性検査は順を追って行ってもらう」
「はい」
思わず安堵の息をつく。
とにもかくにも、これで当面の衣食住は確保された。
あとは記憶を取り戻していくだけ。
「次回の壁外調査は約1ヶ月後だ。可能であると判断すれば参加してもらう」
「壁外調査・・・ですか?」
「その前に、なまえに調査兵団の説明もしないとね」
ハンジさんが苦笑する。
そして本部に戻ることになり、歩き出そうとしたところでふと思い出す。
「エレンくん」
「はい?」
「さっきの、怪我はしなかった?」
勝つためにあんなことをしたが、一歩間違えればエレンくんに怪我を負わせていたかもしれない。
「大丈夫です。どこも怪我なんてしてません」
「よかった・・・。ごめんなさい、あんな危ないことをして」
頭を下げるとエレンくんが苦虫を噛んだように「いえ、」と首を振った。