他の選択肢など思いつきもしなかった



 
「では、エレンと樹の上まで登ってみてくれ」

ハンジさんから立体起動装置の説明を受けた後連れてこられたのは、普通の木の倍以上の大きさの樹がひしめく小さいけど大きな森。
エルヴィンさんの言葉に小さく頷いて、脇のホルスターから起動装置を取り出す。
初めて握るはずのそれは、不気味なほど手に馴染んでいる。
エレンくんがパシュッっとガスを吹かせる音と共に宙に浮き、するすると樹の太い枝に足をつけた。
それを見て、視界が急に白く染まる。


その中に、誰かが立体起動装置を使って樹と樹を揚々と伝い進む姿が映る。
くやしくなって、自分はその人を追い越して自慢げに振り返り―――。



「なまえ!」
「!」


ハンジさんに肩を掴まれて目を見開く。
頭がズキズキと痛んでいるが、今のはおそらく、私の記憶だ。

「・・・誰かと」
「?」
「立体起動装置で、競争・・・をしていました」
「思い出したの!?」

その言葉には首を横に振る。
これを使ったことがある、と思い出しただけで競争をした相手が誰なのかは思い出せなかったからだ。

「・・・・・」

ぐっと起動装置を握り直し、体を傾けてトリガーを引く。
そこからは何も考えずとも体が動いた。
まるで忘れてなどいないと言いたげに体が勝手に樹の上まで導く。
エレンくんの隣に立つと、驚いた表情をしていた。

「やはり、体は覚えているようだな」

エルヴィンさんの言葉にはいと返す。

「それを使いこなすためには最低でも3年の訓練期間を要する。あの時、あれだけ立体起動を手足のように使って戦っていたのだから、おそらくそれ以上の時を使用しているはずだ」
「だから頭では覚えてなくても体が覚えてる・・・」
「そういうことか・・・」

私に記憶が戻らない限りその明確な理由も何もわからないままだ。
でもさっきは立体起動装置に触れることで少し思い出すことができた。
やはり衣食住を確保するだけでなく、記憶を取り戻すには調査兵団にいたほうが戻る可能性は高いのかもしれない。

「では今から模擬戦を行う!エレンと競争して森の中に立てられた巨人の模型を探し出して討伐するんだ」

つまりこれが入団テストのようなものになるらしい。
「始め!」の声と共に私はトリガーを引いた。





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