知らない事が多すぎた、私という人間について
「じゃあ、名前は?」
「・・・なまえ。・・・だと思います」
「自分がどうしてここにいるかは?」
「・・・・わかりません」
私の返答にその人は困ったように首を捻った。
自分の名前・・・はおそらくさっきのであっていると思う。
けれどそれ以外の記憶がなにもない。
物の名前はわかるけれど、自分が何者で、どこにいて、何をしていたのかまったく覚えていなかった。
「でも紋章はうちのだったから、調査兵団にいたんだよね・・・?」
伺うような言葉に目を伏せて「わかりません」と同じ言葉を返す。
さっきから気になっていたのだけれど・・・。
「あの、調査兵団というのは一体・・・?」
その言葉にいよいよ場の空気は凍りついた。
目つきの悪い人が殊更眉を寄せて睨みつけてくる。
「オイテメェ・・・ふざけてんのか」
しかし金髪の人に「リヴァイ」と声をかけて窘められて舌打ちをした。
メガネの人はしばらく唸った後、恐る恐るといった様子で話し始める。
「まさか巨人もわからない・・・とか?」
「きょじん、ですか・・・?」
「・・・ホントに名前以外わからないみたいだね」
次に金髪の人も悩み始めてしまった。
この人たちが私に確認したいことがあるのは十分わかった。
でもそれは私も同じ。
「ここはどこですか?それで・・・あなたたちは・・・?」
私の質問に、金髪の人の頷きを受けてメガネの人が答えてくれた。
「・・・・・」
この人たちの話によると、私は立体起動装置という機械で巨人と戦っていて、その最中に突然意識を失った、らしい。
正直、立体起動装置というのもどんなものか全然記憶にないし、自分がそんな人間を捕食するような化け物と戦っていたなんて到底信じられないものだった。
それでも、
「まだ理解しきれない部分も多いですが・・・・。助けてくださって、ありがとうございました」
私はこの人たちに助けられた、それだけは確かだ。
「・・・今日は疲れただろう。身元の確認は明日にして、しばらく休むといい」
その言葉にもうひとつ、お礼を繰り返した。