君に殺されてしまうのも悪くない、と、思ってしまった



 
辺りは巨人が蒸発する煙が立ち込めて視界が悪いし、体がものすごく重い。
ぐらつく意識の中、立体機動装置の音が近くに聞こえた。

「エレン!!」

重たい首をあげると心配そうなハンジさんとその後ろには兵長もいた。
凭れたままの樹から立ち上がり、再度辺りを見回す。

「体はボロボロだけど、とりあえずは無事だね」
「はい・・・」
「にしても視界が悪いな・・・」
「ねえエレン、なまえを見てない?さっきから探してるんだけど・・・」

ハンジさんの言葉にぐっと奥歯を噛み締めて後ろの崖を見やる。
その行動で伝わったようで、ハンジさんも兵長も息を呑んだ。

「そ、か・・・」
「・・・・」

胸元にあるはずの鍵はすでにない。
この崖の高さでは回収も不可能だろう。
兵士として判断を誤った。
しかしなまえさんに鍵を預けたことは後悔していない。

あれは、ずっと一緒にいると、なまえさんに「永遠」を約束するためのものだったのだから。

「・・・とにかく、本陣に戻るぞ」
「・・・はい」

重たい空気に重たい体。
もうこの世界になまえさんはいなくとも、オレたちは戦い続けなければいけないのか。

チャリン

一歩踏み出したところで聞こえた音に振り返る。


「―――!」


崖の縁に、あの鍵が落ちていた。
慌ててそれを拾い上げる。

「ど、うして」

あの時のなまえさんに鍵を放り投げる余裕があったとも思えない。
しかし―――。

(まだ・・・)

自分がいなくても、人類が未来を掴むその日までがんばれ、と言われている気がした。
ポタリ、透明な雫が鍵に落ちる。





「・・・なまえさん、―――サヨナラ





鍵を首にかけ再び歩き出す。
もう、二度と崖を振り向くことはなかった。





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