あなたが憧れなんだよ、そう君が言って微笑んだ。



 
じぃっと目の前で口を動かし続けるなまえを見つめる。
いきなり話は飛ぶけれど、私は彼女と単純に仲良くなりたいと思っている。
壁外で見つかった人物。
記憶喪失で巨人のことさえ覚えていない。
しかし立体機動装置を悠々と扱える。
彼女の身の上を考えれば研究者的興味という興味は尽きないのだが、何よりもなまえの暖かさというか・・・心の広さというか・・・そういうものに触れていつの間にか単純に人としての興味が勝っていった。

なまえは無知故か穏やかな人柄でとても兵士なんてものには向かない人物に見える。
しかしひとたび刃を持たせれば流石にリヴァイほどとはいかないものの、並みの兵士では太刀打ちできないような動きをする。
とはいえいくら調査兵団に貢献しようとも身元と出自が不明な以上心から信用するわけにもいかずリヴァイの班に配属されることとなった。
すでにエレンを抱える中で何故リヴァイに託されたのか、答えは簡単だ。
エレンに対する危惧というのは"巨人の力が暴走する"ということのみで、普段はまごう事無き兵士なのだ。
それに対しなまえは記憶が無く、その内に何を秘めているのかわからない。
要するにリヴァイがエレンを監視するというのはエレンを調査兵団に引き入れる建て前に過ぎないが、なまえの場合は本当に監視というのが目的ということだ。

しばらくして記憶を取り戻した彼女は見ている方も痛々しくなるほど憔悴していった。
自分の仲間と同じ姿かたちをした人たちが自分のことをまったく知らないと言い、目の前で死んでいった恋人と同じ顔をした人物がいて、無理もないと思う。
しかし何がきっかけになったのか、ある日を境に彼女の目に再び光が灯り始めた。
聞いても教えてくれないのでその理由はわからないままだけど、なまえがこの場所で生きていくと言ってくれた時は嬉しかった。






「―――で?」

突然口を開くとそれまで話していたなまえの動きが止まり、首を傾げる。

「年下の恋人とはどうなの?」
「!」

訊ねるとなまえは頬を赤く染めた。
割と年は近いはずなんだけれど、頬を染めるなまえを見て妹がいたらこんな感じなのかななんて思った。

「からかわないでくださいよ」
「えー?だって気になるじゃない。壁外であんなに派手に喧嘩もしてたのにどうしてああなったんだろうって」
「その説はご迷惑かけました・・・」

困った顔で視線を彷徨わせるなまえはもうだいぶいろんなことが吹っ切れてきたように思える。
前にいたところを忘れろなんて言えないが、私はこうしてなまえとお茶をしながら話をすることをずっと望んでいたんだ。

「まあ、なまえが幸せそうだからいいんだけどね」

そう言えばなまえは瞬きをして、嬉しそうに微笑んだ。





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