一方通行の矢印の終結点は「君」と「あなた」
さらさらと午後の日差しと優しい風が部屋に入る。
目の前のベッドに横たわる少年は穏やかな表情で眠っている。
思わず手を伸ばして前髪を払ってやると、少年は瞼を震わせた。
虚ろに彷徨う視線は私にたどり着くとその動きを止める。
「・・・なまえ、さん」
擦れた声にあの力の代償を知る。
投げ出された手に触れようとして、思いとどまった。
「・・・無事だったんですね」
「・・・・」
うん、と返事をするはずが声にならず、頷きで返した。
震える息を呑み込んでゆっくりと口を開く。
「・・・羨ましかったんだ」
僅かに見張った視線を受け、でもこれは伝えなければいけないのだと心を奮わせる。
「もう私に無いものがここにはあって、羨ましくって、嬉しくて、妬ましくて・・・・。でもね、見てたら気付いたの。姿が似ているだけで、あの人たちとは違うんだって」
同じ姿をした、違う人間。
「・・・・・・ごめんなさい。わたし、ひどいことを・・・」
真っ直ぐ射抜いて来る目をとうとう見ていられなくなって俯く。
「・・・オレも、すみませんでした」
その言葉に首を振って、もう一度顔を上げる。
「私、決めたの。・・・ここで生きていくって」
「・・・!」
「あの場所を忘れるなんてできない。でも今私がいるのはここで・・・あんなに、心配してくれる人たちがいる」
巨人を倒して、みんなと合流したときのあの安堵した顔やかけられた声を忘れる事はできない。
もうそこにはない、鍵があったはずの胸元で手を握る。
「だから・・・!」
続けようとした言葉は抱きしめられたことにより呑み込まれた。
ぐっと少し強い力の温もりは、何故か彼を思い出すことはなかった。
「好きです」
苦しげな、でも真っ直ぐな声で告げられたそれは心臓を震わす。
触れている服を掴んで、その肩に頬を寄せた。
「ありがとう・・・エレン」