どれだけのあいと、どれだけのかなしみを、あなたは。
「エレンくん!!」
もう何度目かわからない静止の声も聞き入れられない。
エレンくんはその身を傷つけながら走る。
私を掴んだまま満足に戦えもしないのに、何を考えているのだろうか。
この手から逃れるには、指を切ってしまうしかない。
だがどうしても、これ以上彼を傷つける行為だけはしたくないとそれだけが頭を占めているのだ。
「・・・っ!!」
唸り声を上げながら走って少し。
記憶のどこかに引っかかる景色に一瞬のフラッシュバック。
「イ、イ”・・・オ」
「――――!!!」
サッと血が引く。
「エレンくん!!止まって!!」
その叫びも空しく、
「っ・・・!」
あの崖にたどり着いてしまった。
巨人たちが追いかけてくる中、エレンくんは崖を背にしてひたすら巨人と戦う。
もういい、もういいよ・・・!
あの時の光景が重なって体の震えが止まらない。
そして、一番恐れていた瞬間はやってきた。
「 」
さっきまでの温もりは無く、体が宙に浮く。
その目の前では頭を吹き飛ばしたはずのあの巨人が大きな口を開けてエレンくんに向かって行く。
硬直してしまったかのように体は動かないし、声も出ない。
そのとき、
チャリ
と、服の中に仕舞っていた鍵が小さな金属音と共に視界に入る。
その瞬間一気に思考が冴え、無意識に握ったままの起動装置に力がこもった。
(違う)
今はあの時じゃない。
エレンくんはエレンじゃない!
アンカーを崖と樹に刺し、遠心力で飛び上がる。
「ああぁあああぁっ!!」
そしてエレンくんの肩に噛み付こうとしている巨人のうなじに向かって思いっきり刃を振り下ろした。