思いこんだ事実が、本当は真実ではなかっただなんて、
コンコン
ドアをノックすると中からすぐに入室の許可が聞こえ、もう一度自分の意思を確認してから扉を開く。
執務机に向かっていたエルヴィンさんは一瞬驚いた表情をして、すぐに真剣な顔に戻った。
「どうかしたか?」
「・・・・お願いが、あります」
見定めるような視線を受けながら、息を吸う。
「次の壁外調査に参加させてください」
私の言葉に少なからず驚いたようで、エルヴィンさんは少し表情を崩した。
「理由を聞かせてほしい」
「・・・私の知ってる団長は、考えるときに顎を触る癖があります」
訝しげなエルヴィンさんに言葉を連ねていく。
「兵長はすぐに足が出るし、ハンジはコーヒーに必ずミルクを少し入れた。・・・・エレンも、私を甘やかすことはあっても、ああやって叱ってくれたことは一度だってなかった」
私が作戦で失敗したときや些細な事で怒って喧嘩をしたときだって、いつだって彼が先に謝ってきて私を甘やかしてた。
でも、だからこそ。
「気付いたんです。私の知っている彼らと、ここにいるみんなが『別人』なんだということに」
同じ顔、同じ声に見えるだけで本当は違う。
誰一人として全く同じ人物なんて一人もいはしない。
「私は考えたいんです。あの人たちが危険に晒されたとして、私は動くことが出来るのかどうか。・・・私が、この場所で生きていく覚悟が本当にできるのかどうかを」
エルヴィンさんは目を閉じ、少しの沈黙の後口を開く。
「正直、君の話を聞いたとき信じられなかったよ。平行世界から来たなんて仮説もね。・・・でも、今の君の言葉は信じよう」
すっと手が差し伸べられる。
「次の壁外調査、期待している」
「・・・ありがとう、ございます」
握った手は、今の私には温もりで満ちているように思えた。