せめて、最期は穏やかに君の顔だけを見ていたかった
『イ、イ”・・・オ』
あのくぐもった声が今も鼓膜に焼き付いていて離れない。
私がこうしてこの場所で生き、自害しようと思わないのはエレンのあの言葉があるからなのか、それとも死ぬ勇気がないだけか。
ずっと悩んでいるけど答えはでない。
ついこの間ハンジさんに八つ当たりがまいのことをしてしまったため、一人でこうして調査兵団の宿舎の片隅にある古びた長椅子に腰を下ろしているのだが、ずっと意味のない自問自答を繰り返すばかりだった。
重い息をついて目を閉じ、長椅子の背にもたれかかる。
「なまえさん」
「っ?!」
突然かけられた声に身を起こすと、少し離れたところにミカサちゃんが立っていた。
今までは遭遇しても声をかけられることはなかったのにどういう風の吹き回しだろうか。
「どうか、した?」
「・・・・・」
私の問いにミカサちゃんは答えず、少しの沈黙が下りる。
「隣に、座ってもいいですか」
その言葉に否定はできず、「どうぞ」と勧めると人ひとり分の距離を開けて隣に座った。
「・・・・エレンが」
その名前に思わず体を跳ねさせそうになり、沈黙を保つことによって次に続く言葉を待つ。
「最近、元気がないんです」
「・・・・そう」
「きっと、なまえさんに・・・元気がないからだと思います」
だから元気を出せって言うの?
口を噤んだまま黙っていてもミカサちゃんは細々と言葉を紡いでいく。
「なまえさんが・・・こんな言い方しかできないけれど、大変なのは見ていてわかります。でもなまえさんが落ち込んでいるとエレンも落ち込む。・・・私たちも、心配、です」
あの日、突然の告白に泣いたのは別に嫌だったとかそういうのではない。
同じ顔で、同じ「好きだ」という言葉を言われたからだ。
そのことに驚きと混乱が混ざり合い、涙が止まらなくなってしまったのだ。
あれ以来話をしてはいないが、エレンくんがどこか落ち込んだ様子なのは傍目に見てわかる。
「私たちは、なまえさんの知ってる私たちとは違うかもしれない。でも、」
顔を上げるとミカサちゃんの黒曜の瞳と視線がぶつかる。
「私は、なまえさんと・・・仲良くしたい、です」
開いた口が塞がらないまま、ミカサちゃんは椅子から立ち上がりどこかへと去って行った。