纏う空気に触れては、もう歩み寄れないことを知る



 
先日のエレン、くんの言葉を受けてというわけではないけれど、訓練には参加することにした。
あの時の会話で少しだけ頭が冷え、こうして帰ることが出来ない以上私はこの調査兵団に所属する兵士で、当然兵としての使命を全うできなければただのお荷物なのだと思い出した。
まだ食事は無理矢理押し込んでいるし、ふと涙が零れてしまうこともあるものの、兵士としての責任は果たす。
そう決めて訓練しているのだが、見知った顔からの心配するような視線が予想以上に痛い。
ミカサちゃんやアルミンくんは元々班も違って予定が合うことも少ないし、リヴァイさんは気にしていないのか何も聞いてこない。
エレンくんもあれ以来会話どころか目も合わせないのだが、ひとりだけ、どうしても回避できない人物がいる。




「大丈夫?」

そう言って顔を覗き込んできては頭や肩に手を伸ばそうとしてくるのを一歩身を引いて避ける。
ぽろぽろと涙も止まらないまま「平気です」と返すとハンジさんは苦笑した。

「そんなに泣いてるのに?」
「止まらないんです。発作みたいなものなので気にしないでください」
「って言われても気になっちゃうんだよ」

「なまえはたまに無茶するんだから」と言ったハンジさんの姿がハンジに重なる。
ハンジにそう言われては「そんなのお互い様でしょ」と返すのが私たちの恒例だったが、今目の前の彼女はそんなこと微塵も知らないのだ。
私の親友であったハンジは、どこにもいない。
ぐっと唇を噛んで踵を返すと後ろからついて来る足音が聞こえる。

「私の観察するより巨人の研究でもしたらどうなんですか」
「それはもちろんしてるよ!でもなまえのことも心配なの!」

歩みを止めると後ろの足音も止まる。

「私の持ってる情報が欲しいから付きまとっているんですか」
「え?」
「だとしたらあなたはどこまでも"分隊長"ですね」

そう吐き捨てて再び歩き出しても後ろで足音はしない。
何かを呟いているが、今の私の耳には届かなかった。





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