特別は私じゃない、その言葉をどうやって封じ込めてくれようか。



 
「・・・・そして気付いた時には、あの森で倒れていました」

部屋は言いようのない沈黙に包まれている。
無理もない。
私だって何がどうなっているのか理解しきれていないのだから。

「・・・聞いたことが、あります」

アルミンくんの言葉に顔を上げる。

「世界はさまざまな行動や言動により分岐し、そこから並行する世界が生まれるって」
「ああ『並行世界』ってやつなら、私も聞いたことがあるよ」

その話にハンジさんとエルヴィンさん以外は首を捻った。

「つまり例えばの話、エレンが調査兵団に入ってなくて、駐屯兵団や憲兵団に入っていたとしたらっていう『もしも』の世界があるってこと。それはこの世界と並行して時が流れていて決して交わることはない、はずなんだけど・・・」
「もしその仮説が本当だったとしたら、なまえは別の世界の人間ということになる」
「ええっ?!」

ありえない話だ。
でもそうとしか考えられないことでもある。
でなければ私が立体機動装置を使いこなしたり、いくら探しても戸籍が出てこない説明がつく。
再び降りた沈黙を裂いたのは明るく務めたハンジさんの声だった。

「ま、まあ記憶が戻ったのは良かったよね!」

良かった?


「・・・何が、良かったって言うんです」


ぎりぎりと噛み締めた奥歯が軋む。
恋人を目の前で殺されて、気付いたら並行世界?
しかも大切な仲間たちが無事に生きていると思ったらそれは並行世界の彼らで私の知ってる彼らじゃないって?
もう少しでローゼを奪還して、巨人に勝てるはずだったのに・・・・ああ、そうか。

「確かに・・・私が持ってる情報は、あなたたちに利がありますね」

この世界に隠された真実。
それらは未だ壁の中で愚図っている彼らには尊重すべき、大いなるものだろう。
そうでなければ、記憶を取り戻したことによって心身が安定され兵士として十分な働きをするだろうということか。
どちらにせよ、事実この世界で私はひとりだ。

「鍵を、返してください」

そう一言言えばあっさり鍵を返してもらえた。
ぐっと両手で握って、誰の顔も見ないように部屋を出る。
少しだけ見えたエレンくんの顔は予想通り困惑に染まっていた。





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