遠くない昔、錆び付いた歯車、回り出す音
ひゅっと自分が息を呑む音が聞こえる。
次第に覚醒を始めた体のあちこちが痛みと軋みに襲われた。
続いて感じたのは、噎せ返る花の香りと暖かい日差し。
重たい瞼を開くと、最初に飛び込んできたのは色とりどりの花たちだった。
感覚が戻ったばかりの腕に力を入れて横になっていた体を起こす。
どうやらここは森に囲まれた花畑らしい。
まだぼんやりとした意識の中、なんとか立ち上がる。
「・・・・?」
するとキン、と金属物が落ちる音が響く。
視線を向けた時には花に紛れてどこに落ちたか分からなくなってしまっていた。
探すべきか、と少し意識が戻ってきた頭の片隅で考えた瞬間、
「 」
それは木々をなぎ倒して現れた。
「エルヴィン」
すん、と鼻をすすった男の声に先頭の人物が振り返る。
「東の森から2・・・いや3体」
ミケの言葉に視線を向ければ、確かに大きな森がある。
そう認識するのと、その森から何かが飛び出してきたのは同時だった。
「あれは・・・!?」
森からはミケの言った通り3体の巨人が現れた。
しかし驚くべきはそれではない。
巨人たちの追いかけているもの、あれは・・・。
「人間・・・!?」
ここは5年前に放棄されたウォール・マリア内、つまり巨人が跋扈しておりとても人間が生きられる場所ではない。
ましてや壁の中から出てくる人間などいるはずもなく、いるとすればこうして壁外調査に乗り込む調査兵団くらいのものである。
よくよく見れば、その人間は見慣れた茶色の上着を着ており、腰には立体機動装置をつけている。
「兵団の人間か?」
リヴァイの言葉に可能な限り頭を働かせるが、とても考えられる事象が思いつかない。
もし仮にあれが前回の壁外調査の生き残りであるならば、あの人物は一か月以上もの間壁外で生きていることになる。
「あっ・・・!」
ハンジが思わず声を上げた。
その人物は巨人の肩にアンカーを刺して思いっきりワイヤーを巻き上げる。
そして到底只者とは思えぬ動きでおよそ15メートル級を2体同時に削ぎ殺した。
残るは7メートル級、というところでその体がぐらりと揺れる。
「リヴァイ!ミケ!」
咄嗟に指示を飛ばす。
すると予想通りその人物は地面に向かって落ちていく。
巨人に捕まらぬ様にミケが人間を受け止め、続いてリヴァイが巨人のうなじを削いだ。
二人に近づいてミケが横抱きにした人物を覗き込む。
それは、調査兵団の服を着た満身創痍な女性だった。