それならば、君の孤独を分けて欲しいから傍にいさせてください
『なまえさんが出てこない?』
『うん。部屋の外から呼びかけてみたんだけど・・・返事どころか物音ひとつしなくて』
『少し、心配・・・』
数日前に幼馴染二人とした会話がぐるぐると頭をめぐっている。
そして悶々としたまま掃除をしていたら兵長に怒られてしまった。
でもこのまま作業しててもまた同じ失敗を繰り返しそうだな、と考えて思い切って兵長に許可をもらうことにした。
「あの、兵長」
「何だ」
「なまえさんの様子を見に行ってもいいでしょうか」
その問いに兵長は一瞬沈黙し、次いで「すぐに戻れよ」と言葉をもらった。
コンコン
「なまえさん?」
ドアをノックして呼びかける。
が、幼馴染の情報通り中からは物音ひとつせず、当然返事も返ってはこなかった。
小さくため息をついてどうしようかと悩むものの、返事がないのを無視して部屋に入るのがいいとは思えないし、結局外から声をかけるしかないのだ。
「なまえさん、大丈夫ですか?ずっと出てきてないみたいですけど・・・」
それでも中からは何も返って来ず、もしかしていつの間にか抜け出してどこかへいってしまったのではないかという考えが頭をよぎる。
咄嗟に「入りますよ」と声をかけて鍵のないドアを開いた。
部屋は荒れるでもなく、開かれた窓からさらさらと心地いい風がカーテンを揺らしている。
目的の人は数少ない家具の机に突っ伏していた。
「なまえさん?」
二度目の呼びかけになまえさんは肩をビクリと震わせた。
「・・・ミカサもアルミンも、心配してましたよ。なまえさんが出てこないって」
ここまできてだんまりを決め込んでいるなまえさんに少し苛立ちを感じつつも、近付いてその肩に触れた。
その瞬間、
「っ!」
強い力で手を払われる。
なまえさんは泣いていたのか目を赤く腫らし、いつもの穏やかな雰囲気はすっかり身を潜めている。
そのことに気付きながらも、手を払われたことによりさっきの苛立ちがふつふつと大きくなり、払われた手を掴んで大きな声を出してしまう。
「みんな心配してるんですよ!?こんなとこに籠ってないで出てきたらいいじゃないですか!」
オレの言葉になまえさんは唇を震わせた。
「こんな、ところ・・・?あなたにとってはこんなところでも、私にとっては今一番安心できる場所なんだよ・・・。・・・知ってるのに知らない。味方のはずなのにそうじゃない。そんな外がこわくて仕方ないの。・・・・あなただってそう」
ボロ、大粒の涙がなまえさんの頬を伝う。
「あなたは、私の知ってる「エレン」じゃない・・・!」
そんな、こと、わかってる。
なまえさんは恐らく平行世界と呼ばれる場所から来て、同じに見えてでも違う調査兵団のみんなと生きてきた。
でもなまえさんが今いるのは"この"調査兵団で、"オレ"の目の前だ。
なのに今を見る事すらできないなんて、
「好きなん、ですよ」
噛み締めるように心から漏れた声はなまえさんの時を止めた。
「オレは、なまえさんの隣にいたい」
なまえさんは言葉を発する事無く、冷たい床に頽れて嗚咽をこぼし続けた。