救いきれない弱く成りすぎた心に、非力な涙をひとつくださいませ。
もうすっかり見慣れてしまったはずの天井。
ゆっくり体を起こして部屋を見渡す。
最初から備え付けられた椅子とテーブル、棚にベッド。
少し殺風景な部屋は記憶とまったく違っている。
ぺトラと部屋に飾るために摘んできた花は?
団長がお偉いさんからもらったけど使わないからと頂いたクロスは?
アルミンくんから借りていた本は?
兵長に提出しなければいけない報告書は?
ハンジとお茶をして、片づける時間のなかったカップは?
(・・・・・・・)
そして、あの子から預かった鍵は。
どうして、なにもない。
「・・・・・・・」
コンコン、と控えめにノックの音が鳴る。
ドアから顔を覗かせたのはハンジ・・・さんとミカサちゃんにアルミンくん、それと。
「なまえさん!」
エレン、くん。
なんで、どうして、そんなはずない。
違う、違う違う違う!
震える手を握ることで抑えてみても効果はない。
4人が心配そうにベッドに近づこうとして、
「やめて」
その一言で4人は動きを止めた。
ハンジさんが困惑したように体を揺らす。
「どうしたの?なまえ、大丈夫?」
『なんて顔してるのなまえ、大丈夫だよ』
その姿があの時の姿と被り、ヒュッと息を呑む。
「出て行って」
「ちょ、なまえさん?」
エレンくんが一歩踏み出してきたのを見て、カッと頭に血が上った。
咄嗟に枕を掴んで力任せに投げつける。
「出て行け!!!」
私の言葉にそれぞれ傷ついたような、困惑したような表情を残し、静かに部屋を出て行った。
「・・・・・っ」
膝を立てて顔を埋める。
そんな、泣きたいのはこっちだ。
どうしてこんなことに・・・!
混乱する頭でも、思い浮かべるのはただ一人の笑顔で。
―――会いたい。
「あいたいよ・・・エレン・・・!」
涙で震える声は部屋に呑み込まれ、返す声も差し出される手もなかった。