溶けそうな色を宿している



 
「やはり、調査兵団にいたのは間違いなさそうだね」

エルヴィンさんは書類から顔を上げる。

「新兵や他の兵団員であれば、初めて見る巨人に怯えて倒すどころではなくなってしまう。でも君はそれにも関わらず討伐数5に討伐補佐数2・・・。並の兵士でもいかないだろう数だ」
「そう、なんですか」

いまいち実感がわかないが、とりあえずこうして無事に帰ってこられたことに安堵する。
もしかして私がリヴァイさんの班につけられたのはこれを確認するためだった、とか?
今は確認することでもないか。
書類が積まれて忙しそうなエルヴィンさんの部屋を退室し、そういえば一緒にがんばってくれた馬に餌をあげなければと思いついて建物を出る。


「あ、なまえさん!」


声に振り返ると、エレンくんがこちらに走って近寄ってきた。
いつもならそんなことないのに、珍しい。

「どうかしたの?エレンくん」
「・・・あの時、助けてもらったのにお礼も言ってないなと思って」
「そんなの気にしないで。エレンくんが無事でよかったから」

気まずそうに頬を掻く少年そのものの姿にふと笑みがこぼれる。
しかしエレンはなおも口ごもっていて、首を傾げると意を決したように口を開いた。

「実はオレ、なまえさんのこと疑ってたんです。その・・・壁の外にいたし、記憶もないって聞いて」

人は得体の知れないものや異なるものを畏怖し敬遠する。

「それも仕方ないことだと思う。私が同じ立場だったら、そうしちゃうと思うし」
「でも、オレたち以上になまえさんの方がわからないんですよね」

エレンくんの言葉に目を見開く。
エルヴィンさんやハンジさんに何度も何度も記憶を問われて、そんな中で言えなかった一言。


「自分のことが何もわからなくて混乱してるのに、巨人と戦って、あんなに強くて・・・。助けてくれて、ありがとうございました」


そんなこと。
ボロッっと涙がひとつこぼれたのを皮切りに流れるそれはエレンくんを困惑させた。

「ごめ、ね。そんな風に言ってもらえてうれしい。私の方こそ・・・ありがとう、エレンくん」

そんなエレンくんはぎこちなく笑い返してくれる。




『――――――』




頭の奥で声が聞こえる。

「なまえさ・・・うわっ!」

それはその金色の奥、その向こうに”何か”がありそうで―――。


「なまえさん!」
「!」


エレンくんに肩を叩かれ、気が付くと私はエレンくんの顔を両手で挟み込んでその目をじっと覗き込んでいた。
慌ててその手を離す。

「ご、ごめんねエレンくん」
「いえ・・・大丈夫ですか?」

頷いてもう一度「ごめんね」と謝る。
私もエレンくんも慌てていたから、その光景を誰かが見ていたなんて気付きもしなかった。





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