こんな思いはしたくない




 
馬の蹄と車輪の音が響く夜中、俺達は目的地の中継所であるエルミハ区へと向かっている。
その道中でアルミンが呟くように声を漏らす。

「一体どうすれば・・・いきなりローゼが突破されるなんて・・・。我々に、何か・・・手が残されているのでしょうか・・・。これからエレンを現場に向かわせたとしても・・・とても上手くいくとは思えない・・・」

ちらりと毛布にくるまったエレンに視線を向ける。
まだ女型との戦闘の際に巨人化した後遺症が抜けておらず、ミカサに支えられるようにして馬車に揺られている。

「それに、なぜ・・・ウォール教の司祭まで一緒に」
「ああ、ニックとは友達なんだよ。ねー?」
「・・・・・」

面白くない冗談だな、それが本当ならお前は今頃審議所行きだぞ。
なんて思いながらも黙っていると、ハンジが一転して真面目な顔で話し始める。

「彼は壁の中に巨人がいることを知っていた。でもそれを今までずっと黙っていた。なぜかは知らないが、自分が死んでもその他の秘密を言えないというのは本当らしい・・・」
「・・・教団は何かしら、壁の秘密を知っているんだ」
「はぁ!?何だそりゃ!!」

予想通りエレンが突っかかるが、すぐによろめいてミカサに支えられる。

「自ら同行することを選んだんだ。状況が変わったから、現状を見てもなお原則に従って口を閉ざし続けるのかどうか自分の目で見て自分に問うんだと」
「イヤイヤイヤイヤ・・・それはおかしいでしょ・・・。何か知ってる事があったら話してくださいよ・・・人類の全滅を防ぐ以上に重要なことなんて無いでしょう」
「どうだろう・・・私には司祭は真っ当な判断力を持った人間に見えるんだ・・・。もしかしたらだけど、人類滅亡より重要な理由があるのかもしれない・・・」

ハンジの考えには一理ある。
そうでなければいずれ壁は突破されローゼだけでなくシーナだって危うい状況にあるのだから。

「まぁ・・・こいつには少し根性があるらしいが、他の信仰野郎共はどうだろうな・・・。俺は今、役立たずかもしれんが・・・こいつ一人を見張ることぐらいできる。くれぐれもうっかり体に穴が空いちまうことが無いようにしたいな・・・お互い」

司祭はリヴァイが見張ってる限りおいそれと変な事はしないだろう。

「それはさておきだ。・・・ハンジ、お前はただの石ころで遊ぶ暗い趣味なんてあったか?」

それは俺もずっと気になっていた。
出発時からハンジはそれをずっと触ったり握ったりしている。

「あぁ・・・そうだよ。これはただの石ころじゃない・・・。女型の巨人が残した硬い皮膚の破片だ」
「え・・・え!?消えてない!?」
「そう!アニが巨人化を解いて体から切り離されてもこの通り!蒸発もしない・・・消えてないんだ」

準備中に何を熱心にやっているのかと思っていたがどうやらその皮膚の欠片を調べていたらしい。
ハンジの話では、その皮膚は壁と同じ構造でできておりおそらく壁は大型巨人が主柱になりその硬化能力によって形成されている。
よって巨人化したエレンがその能力を使いこなすことができれば、ローゼに空いた穴も塞ぐことができるんじゃないかということらしい。
もちろんエレン自身もそんなことが可能かどうかわからないが、それが可能であればマリアの奪還も夢ではない。

「ただしすべては、エレンが穴塞げるかどうかにかかっているんですが・・・」

こんな絶望的な状況下で湧いた希望。
全員の視線がエレンに集中しその口を開こうとした瞬間、リヴァイが声にするほうが早かった。

「やれ・・・。やるしかねぇだろ。こんな状況だ・・・兵団もそれに死力を尽くす以外にやることはねぇはずだ。必ず成功させろ」
「・・・はい!オレが必ず穴を塞ぎます!必ず・・・」

何と言うか。
こんな子供に人類の未来を託すしかないと思うと、俺達は役立たずだなと感じずにはいられなかった。




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