見えない檻
下では女型のうなじからアニ・レオンハートを取り出す作業が急いで行われている。
「ミカサ」
自分と同じように壁にぶら下がったままのミカサを呼べば、下に向けていた視線をこちらに向ける。
「よくやったよ。女型を逃さずに済んだ」
「・・・いえ」
抑揚のない声で返され、改めて調査兵団っていうのは一癖あるヤツの集まりだななんて思った。
その瞬間、下から放たれた閃光が目を襲った。
「っ・・・!」
「今のは・・・」
しかし下の様子を確認する間もなく、すぐそばの壁が軋み、罅割れる。
「!?」
「危ないな・・・。ミカサ、こっちに――――」
その瞬間、時が止まったように思えた。
壁の破片が落ちていき、割れたそこには。
巨大な巨人の顔が埋まっていた。
近過ぎる距離に声も出せず動きを止める。
目が開いているが、生きているのか・・・。
考えを読んだように巨人の目がゆっくりとこちらを向いた。
ミカサと同じタイミングで、操作装置を握る手に力を込める。
しかしそれを振るうことはなく、巨人に日光を与えないよう布で覆い隠された。
それを見てしまった兵士にはとりあえず箝口令を敷いたがどこまで効果があるか・・・。
でもこれで分かったことがいくつか出て来た。
「まずはこの事実を壁教のニックとかいう司祭が知っていた。つまりあいつらに壁に口出す権利を与えた王政もこのことを知ってるんだろう。あとは・・・壁の製造方法か」
「ああ・・・。巨人の硬化の能力で造られた可能性が高い」
エルヴィンはじっと虚空を見つめて口を開く。
壁に寄りかかったリヴァイも、どこか現実味のないような表情のまま窓の外を睨んでいる。
あのすべての壁の中に巨人がいるのだとしたら。
「・・・ほんとに、笑い話にもなんねぇよ・・・・」
混乱したくなる思考をなんとか留まらせながら、ぐしゃりと前髪を掴む。
「・・・とにかくハンジとアルミンを呼び戻して会議だ。その後に区長や憲兵団との会議も行われるだろう」
窓の外の夕日は、そんなことを夢だと思わせたくなるほど優しい色をいていた。