靴がなくても歩けるということ
今日、調査兵団の王都への召集とエレンの引き渡しが行われる日。
ある大きな作戦が行われようとしていた。
時は2日前に遡る。
「遅ぇな・・・」
旧調査兵団本部。
エレンを隔離、庇護するために移ったここは、来たときよりも閑散としてしまった。
「・・・・・」
大きなテーブルを囲っていたはずの団員達はもう亡く、リヴァイとエレンと俺の三人だけだ。
沈黙が耐えられないのか、気を遣っているのか、リヴァイがさっきからぽつぽつと言葉を呟いている。
「エルヴィンの野郎共・・・待たせやがって。憲兵が先に来ちまうぞ・・・」
「まあ・・・この状況を回避しようとしてるんだ。時間はかかるんじゃねぇの?」
「はっ。大方・・・クソがなかなか出てこなくて困ってんだろうな」
「んなわけあるか」
俺達の会話にもエレンは乾いた笑いをこぼすだけだ。
冷めた紅茶を少し口に含むと、渋味が口の中に広がった。
「兵長・・・今日は・・・よく喋りますね」
「バカ言え。俺は元々結構喋る・・・」
エレンは僅かに瞳を揺らす。
「・・・すいません。オレが・・・あの時・・・選択を間違えなければ・・・、こんなことに・・・。兵長にもケガをさせて、ギルバート分隊長にも・・・」
「・・・言っただろうが。結果は誰にもわからんと」
女型からエレンを救い出した時の怪我は思ったより酷く、リヴァイはしばらくの間前線から遠のくことを余儀なくされた。
勿論、調査兵団にとってこれ以上ない痛手である。
そしてこの沈黙を破るようにノックの音が響く。
「遅れて申し訳ない」
エルヴィンや数名の兵と部屋に入ってきたのはエレンの幼なじみであるミカサとアルミンだった。
しかも、女型の巨人と思わしき人物を特定したのだと言う。
「女型の巨人を捕えるために作戦を立てた。決行日は明後日。その日に我々とエレンが王都に召集されることが決まった」
「!」
この作戦が失敗すればエレンは引き渡され、壁の破壊を企む連中をおびき出せなくなる。
そうなってしまったら終わりだ。
次はない。
憲兵団に護衛される時にストヘス区でエレンが抜け出し、目標をおびき寄せて地下で捕える。
これが成功すれば当然召集の話は無くなるはずだ。
「・・・・」
しかし女型の正体を割り出したアルミンはずっと苦い表情をしている。
聞けば、女型はエレン達104期訓練兵の一員であり、生け捕りにした2体の巨人を殺した犯人だとも思われるらしい。
アニ・レオンハート
それには様々な推測があるようだが、決定的な根拠はないのだと言う。
「つまり・・・、根拠はねぇがやるんだな・・・」
同期を疑うことにエレンは後ろめたさを感じているようだ。
それでも、
「何もしなけりゃ、エレンが中央の奴らにいいようにされるだけだ」
「・・・・。アニを・・・疑うなんて・・・、どうかしてる・・・・」
それでも、やるしかない。
そしてそれが決行された今日――――。
ドオオオオオオン!!
ストヘス区に轟音が響き渡った。