つまり哲学





馬を歩かせて数時間。
空の清々しい青さに反してとてつもなく気分は憂鬱だった。
前を歩くオルオがエレンに突っかかってるのを見ても庇ってやる気分にもなれない。

「はあ・・・」

何度目かのため息にいい加減痺れを切らしたのか、隣のリヴァイが舌打ちをこぼした。

「さっきから鬱陶しいな・・・。一体何だ」

何だも何も、さあ。

「これから数時間後の未来を憂えてるんだよ・・・」

そんな俺の思いに反して、森を抜けた先にそれは見えてきた。







「・・・っしょ、っと!」

ガラガラと音を立てて木片を部屋の隅に積んでいく。

壁外調査が決行されるまでの間、エレンを囲っておくために移動した先は旧調査兵団本部。
古城を改装しただけの外観で、壁からも水辺からも遠い。
そして長く使われていなかったためまさに文字通り荒れ放題なわけだ。
そんな場所で暮らすとあって潔癖症の兵長様が黙っているはずもなく、こうして特別作戦班のメンバーは城の掃除に駆り出されていた。
別に掃除が嫌いなわけではないが、どうしても面倒だという思いが勝ってしまう。

「ギルバート分隊長」

ぐっと伸びをすると後ろから声がかかる。
伸ばした腕をそのままに振り向くとエレンが部屋の入口から顔を覗かせていた。

「おー、どうした?」
「リヴァイ兵長が、えっと・・・様子を見てこいと・・・」
「・・・・」

あの野郎。
今のエレンのどもり方からしておそらく「サボってないか様子を見てこい」とでも言ったんだろう。
俺が口端を引き攣らせたのを見てエレンが慌てて取り繕うように口を開く。

「あ、あの」
「あーいい、いつものことだ。使いっ走りにさせて悪いな」
「いえ、」
「ん?」

歯切れの悪い返答に首を傾げると、少しの沈黙を挟んで再び口を開く。

「リヴァイ兵長と、その・・・とても仲が良いんだなと思いまして」
「ああ、そのことか」

初対面の人間は俺のリヴァイに対する態度を見て驚くか顔面蒼白になるかのどちらかだ。
相手は人類最強の兵士長でしかも態度は粗暴。
そう思われるのも当然と言われれば当然かと思ったのは随分と前の事だ。

「リヴァイが地下街出身なのは知ってるか?」
「はい」
「俺もそうなんだよ」

エレンは驚いた表情を隠すことなく顔に張り付けている。

「俺は地下街にいた前の記憶が無くてな。当然家族もいないし、そんな時にリヴァイとつるむようになって・・・今に至る、かな」

だから、


「何よりも大切な人ではある。アイツの為に調査兵団に入ったって言ってもいいな」


押し黙ったままのエレンを振り返ると、視線が合ってやっと口を開いた。

「羨ましいです」
「?」
「俺にも・・・そんな信頼関係が築けるでしょうか」

・・・ああ、これはやはりというか何というか、勘違いをされたようだ。

「少なくとも、お前にその気がないと無理な話だ。相手はお前にとって先輩ばっかだしな。でも無理にしようとするのも間違ってると思う」
「・・・・」
「まあ、何事にも時間が必要ってことだ。調査兵団に身を置く者として非現実的な言葉かもしれないけどな」

エレンは否定するでもなく俺の言葉を聞いている。
ただひとつ、俺とリヴァイがただの仲間だと思っているのは勘違いだけどなと心の中で零した。




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