「・・・・・・・」 これはどうしたものか。 薄桃色の液体の入った小瓶を指先で転がす。 イル・ファンの夜景を見つめてもただため息が出てくるだけで答えが見つかりそうもない。 イル・ファンにいる知り合いの研究者が、とんでもないものができてしまったと興奮気味に話していたのは数日前の出来事だ。 そうして仕事の間に尋ねてみれば一つの小瓶を手渡された。 聞けば、なんと魔物にも効く媚薬だという。 うっかりできてしまったらしいが、これは十分危険な薬物だ。 ただの媚薬ならそこらに捨てても害はないだろう。 しかし魔物にも効いてしまうとなると生態系に異変がでるかも知れず、処分の方法にかなり頭を悩ませていた。 もういっそ自分で飲んだほうが害は出ないのではないか。 そこまで考えたところでふと横から声がかかる。 「なまえ!」 名前を呼びながら駆け寄ってきたのはジュードだった。 その後ろにはルドガーたちがぞろぞろとついて来ている。 「イル・ファンにいるなんて珍しいね。どうかしたの?」 「いや・・・少し用があったんだ」 小瓶をポケットに突っこんで言うと、俺の歯切れの悪い返答にジュードは首を傾げた。 「こんな時間だし、宿を取ってから話さないか?」 「あ、そうだね。イルネスも今日はここに泊まるでしょ?」 「ああ」 ルドガーとジュードの言葉に頷いて、宿へと向かうために重い足を動かした。 「ほう、カタマルカ高地にそんなギガントモンスターが・・・」 「あいつは手強かったぜ」 「なんせ人の数倍もの大きさですからね。じじいは腰が抜けそうでしたよ」 隣接されているバーで酒を飲みながら旅の話を聞く。 彼らの旅には刺激があり、話を聞くだけで楽しい気分にさせた。 続けてルドガーが口を開こうとしたところで、バタバタと慌ただしい音が耳に届いた。 「なまえ!!」 「どうした?レイア、エリーゼも」 「ジュードが大変なんです!」 二人に腕を引かれながら厨房に行くと床に倒れたジュードの姿があった。 慌てて抱き起し、異常がないかの確認をする。 若干熱っぽいが特に他に異常は・・・。 ふとジュードの下半身に目を向けて固まる。 「・・・レイア、どうしてこうなったんだ?」 レイアの話はこうだ。 何かの拍子に俺のポケットから媚薬入りの小瓶が落ちてしまい、それを見ていたレイアとエリーゼが、ピンク色のものなら甘くなるんじゃないかと調味料だと勘違いして作っていた夕飯に混ぜたらしい。 そして一緒に作業をしていたジュードに味見を頼んだところ倒れたという。 「・・・・・・・」 大きくため息をついてジュードを抱き上げる。 二人は気付いていないようだし、対処するのも早いほうがいいだろう。 「レイア、エリーゼ。ジュードを休ませるから、もう一つ部屋を取ってくれ。あと夕飯は作り直したほうがいい」 ばたばたと走って行く2人を見送ってから続くように厨房を後にした。 |