こつこつ、 扉を叩く音が聞こえて首を傾げる。 外は土砂降りで、おおよそ外に出ようと思う天気ではない。 それでも知り合いだったらいつまでも待たせるのは悪いので、はーいと返事をして扉を開ける。 そこに立っていたのは、 「リンク!」 濡れ鼠、なんて言葉がちっぽけに思えるほど全身を濡らした緑の服の青年だった。 リンクは苦笑いをこぼす。 「どうしたの!?こんなずぶ濡れになって・・・!」 「どうしても行かなきゃいけないところがあってさ」 濡らしてごめんなんて言うリンクを暖炉の前に招き大きなタオルを被せる。 リンクが着れるような服あったかな・・・? タンスを漁っているとあれ、なんて声がリンクからこぼれた。 「なに?」 「こんな花あったっけ?それにそこの絵も」 視線は机上の花瓶と壁のハイリア湖と大橋の絵に注がれている。 「あ・・・それね」 「誰かに貰ったの」 「うん。この間、シャッドがね」 「へえ・・・」 はい、と大きめの服を渡して着替えるように言いつけ、隣の部屋に後退する。 しかし少しして聞こえたガシャンという破壊音に慌てて扉を開けた。 「どうしたの!?」 「ごめん!腕が当たっちゃって・・・」 申し訳なさそうな表情のリンクの足元には花瓶と花が無残な姿となって転がっている。 すかさずリンクが片付けようと手を伸ばした。 「私がやるから・・・」 「ううん。怪我すると危ないし、俺がやるから」 触らせないというように手のひらをこっちに向けてきたので「ありがとう」と笑い、暖かい飲み物を淹れようと台所に向かった。 「じゃあ、急に来てごめんな」 「ううん。気をつけてね」 乾いた服を身にまといリンクは夜闇に紛れて行く。 雨はもう止んでいた。 その翌日、テルマさんからシャッドが亡くなったことを聞いた。 壁にかけられた絵をじっと見つめる。 シャッドが亡くなった、と聞いて浮かんだ感情は、 (ああ、またか) これで何度目だっただろうか。 確かこの前は贔屓にしてたパン屋の女店主でその前は少し話の盛り上がった旅の露天商の老人だ。 私を中心に起こるその現象に気付くなというのが無理な話。 彼らを殺した人物も理由も今となっては明確。 それでも私は気付かない振りをして彼を受け入れる。 「ふ、」 身の毛がよだつようなそれらは私に向けられた愛の形だ。 幾度目かの知らせの時に私はそれに気付いた。 歓喜か狂気か、思わず口の端から笑みが零れてしまう。 こつこつ、 扉を叩く音に立ち上がる。 出迎えれば扉の向こうの彼は愛おしそうな顔で笑うのだ。 |