産声をあげたそれは、



「は?リーゼ・マクシア人の研究者?」
「そう!あれ、君ってそういう偏見持ってたっけ?」

パネルを操作する手を止めて、おどけたように両手を広げるバランを少し睨んでみせるが本人はまったく気にした様子を見せない。
慣れているのと、こういう反応をされるのが分かっていたのだろう。

「ない。けどなんでもっと早く言わないんだよ」
「いやあすっかり抜けていてね」
「どうすんだよ部屋も用意してないんだろ?」

このヘリオボーグ研究所で働く研究員は大概が研究所と併設しているマンション、というより寮のような場所で生活をしている。バランのように通勤している者はごく一部だ。
当然部屋は家具も何もない状態であり、管理者に頼んで部屋を整えてもらう必要がある。
しかしその新人は、この男に頼んだばっかりに初日から野宿の危機に立たされてしまったようだ。
まだ顔も知らないその新人に同情する。

「あ!そういえば君誰ともシェアしてないよね?」

思いついたと言わんばかりの声だが冗談じゃない。
人種の偏見はなくとも、初対面のヤツとルームシェアだなんてとてもやっていけるとは思えない。

「ふざ」

罵声を返そうとした瞬間、研究室の扉が開いた。


「こんにちは、バランさん」


少年だ。自分より一回りは下だろう、その手には大きな荷物を持っている。

「ジュード!よく来たね」

バランに手招きされてジュードという少年はこっちに近付いてきた。

「長い船旅で疲れただろう?」
「はは、少し・・・。でもマクスバードが開けば、両国の行き来がもっとしやすくなりますよね」

苦笑するジュードをじっと見ていると、ふいに目が合う。
それに気付いたバランが俺の肩を叩いた。

「会うのは初めてだよね。彼はなまえって言って、この研究所の研究員の1人さ」
「どうも」
「ジュード・マティスです。なまえ博士」

ジュードの差し出された手を握り返すと、驚いた表情をされた。

「何だ?」
「あ、いいえ。すみません」

不思議に思いながらも手を離す。
するとバランがあきれるくらいの明るい声でその雰囲気を割ってきた。

「ところで。申し訳ないんだけどジュードの部屋がなくってね」
「ええ?!」
「この馬鹿が管理人に頼むのを忘れてたらしい」
「いや本当に申し訳ないんだけど、しばらくなまえの部屋に泊まってくれる?」
「おいその話は・・・!」
「あっと悪いね、これからアスコルドに顔を出さなきゃいけないんだ。それじゃなまえ後はよろしく!」

こっちが反論する暇を与えずにバランは部屋を出て行った。

「・・・・・」
「・・・・・」

気まずい沈黙が流れる中ため息をつき、ジュードを案内するために重い腰を上げた。






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