二人だけの世界


ゴッ

鈍い音と共に魔物が地に伏せる。
こいつでラストだったらしく、他の連中も武器を収めていた。

「ジュード、傷が」

ジュードの頬には一筋の傷が入っている。
深くはないし血も出ていないが、すでにマナとなって消えた魔物にふつふつと怒りが湧いてくる。

「大丈夫だよ、リヒト」
「俺が大丈夫じゃない」

その傷に手を翳して治癒功をかける。
光に当てられて傷は見る見るうちに消えて行った。
そのまま頬を撫ぜて跡がないか確認をしていると、ジュードの視線がふとそれた。

「ってミラのほうが怪我してるじゃないか!」
「うむ。このくらいなら問題ないだろう」

ミラは肩の切り傷からわずかに血が滴っている。
死に至るほどではないが、ジュードのものと比べて明らかに酷い。

「リヒト」

・・・ジュードに言われて仕方なく、だからな。
顔を顰めてミラにも治癒功をかけて傷を治してやる。

「ありがとう、リヒト」

ミラのそれには返事を返さず、武器をしまって荷物を拾い上げる。
ジュードとアルヴィンの呆れた声が聞こえたが、俺のミラへ対する態度の酷さは知っているので口うるさくは言ってこなかった。
ミラも特に気にした様子はなくさっさと歩き出す。
そこにエリーゼが近寄ってきた。

「リヒトは、ミラが嫌い、なんですか・・・?」

内緒話をするように小さな声音で尋ねられた問いに、ため息をつく。

「嫌い、ね。むしろ憎いと言っても過言じゃないけど」
「どうしてー?」
「俺の大切なものを奪ったから」

ティポが大きな声で驚いたのを、エリーゼが慌ててティポの口を塞ぐ。

「ミラはリヒトの大事なもの、奪ったんですか?」
「だから憎いんだよ」

でもお前が気にすることじゃない、とエリーゼの頭にぽんと一つ手を置いて会話を打ち切る。
子供は嫌いじゃないが、その無垢な視線がたまに痛いと思う。








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