幸福論




つまらない。
毎日毎日城に閉じ込められて外へ一歩も出られないなんて。
兄様は何を考えているのかしら?

ガタガタと音をたてて目的もなく本棚を漁る。

この部屋にある書物はすべて読み切っているし、何度も読んでいるから内容も覚えてしまった。
ため息をつき、結局本を手に取ることのないまま部屋を出る。

そう言えば客が泊まっているってジャーファルが言ってたかしら?
そう考えながら歩いていると、廊下の角で誰かとぶつかりそうになった。

「あっ…ぶねえ。大丈夫、ですか?」
「…ええ」

ですか、と足したのは私の装飾の多い服を見て身分の高い者だと思ったからだろう。
金髪の少年はへらりと笑った。

「よかった。本当にすいません」
「…あなた、お兄様が迎えた食客の方?」
「え?そうです…けど」

少年はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
ああ、外から来たこの方なら私の退屈を紛らわしてくれるかしら。

「ねえ、あなた外から来たのでしょう?私外の話がききたいわ」

きっと今私は意地悪そうに笑っているのだろうな。
でも目の前の少年は私の言葉にぱっとまるで太陽の様に笑った。

「いいですよ!えっと…姫さまは、」
「なまえ。なまえと呼んで構わないわ」
「俺はアリババです。なまえ、さん」

名前で読んでも構わないと言っているのに、おかしな人ね。
私はくすくすと笑ってアリババの手を引いた。
自室でもいいのだけれど、八人将以外の男の人を部屋に入れたら兄様が怒ってしまう。
だから中庭にでも行くことにしよう。
太陽の光を浴びて、彼の話を聞くことが今の私にとって1番の楽しみだから。


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