心拍数
午後のゆるやかな時間が部屋に流れる中、テレビにはありきたりな恋愛ドラマが映っていた。
涙をこぼす女に男が叫ぶ。
『俺は君を愛してるんだ!!』
男は女を抱き締めた。
……見れば見るほどありきたりだなあと思う。しかしそんなありきたりなものをなまえは好んでいたっけ。
そう思ってちら、と隣に目を向ける。
予想に反してなまえは俺のイーブイの毛繕いをしていた。しかも鼻歌まで歌って。
……おかしい。前はドラマに夢中で手が止まり、イーブイに何度も怒られていたのに。
「なあ」
「んー?」
なまえは顔も上げずに、間延びした返事だけかえってきた。
「お前ってこういうの好きじゃなかったっけ」
「ん?」
なまえがこっちを見たのでテレビを指差す。
「ああ、うん。好きだよ?」
「観ねえの?」
「うん」
何で?視線の意味に気付いたなまえは「うーん」と指を遊ばせる。困った時の癖だが、少し顔が赤い。
「前はこういう恋愛に憧れてたんだけどさ、」
なまえは困り顔で笑う。
「いまは、そんなドラマよりも素敵な恋をしてるからいいの」
この可愛さは反則だろう。
俺は手のひらでイーブイに目隠しをして、なまえに顔を近付けた。
心拍数
(その後機嫌を悪くしたイーブイに噛み付かれた)(でもなんかしあわせだった)
▼ ◎