この手の届く範囲に、君の恋が降り積もればいい
「ライト」
夜営から少し離れた場所で後ろから声をかけられる。
その声が誰のものかは分かっているので振り向くことはしない。
「寒くはない?」
思えばこの男は人の心配ばかりだ。
グラン=パルスに来てルシの呪いを解く方法も見付けられず、こいつも皆と同じように不安や焦燥に駆られているのだと思ったがそんなことはないのだろうか?
「お前は、人のことばかりだな」
「そうかな」
「疲れないのか」
「うーん…。そもそも、そうだっていう認識が俺にないからな」
なまえが苦笑したのが、雰囲気で伝わる。
「それに人のこと言えないんじゃない?」
「…何がだ」
「ライトこそ、皆の心配してるじゃないか」
そんなことはない。
私はいつだって自分のことだけだ。
セラのことだって守っているつもりで、大人になったつもりで、まったくそんなことはなかった。
「…………」
「無理に受け止める必要はないよ。今のはあくまで俺の印象だから」
なまえは一歩後ろに立ったまま、動く気配はない。
「それよりも、」
ふわりと肩に何かがかけられる。
驚いて振り返ると、なまえはいつもの優しそうな笑みを浮かべていた。
「今日は肌寒いし、風邪をひかないようにね」
夜営に戻るなまえの背中を見て、その遠回しな優しさに思わず目頭が熱くなる。
それを紛らわすために、肩にかけられたなまえのコートを握った。