儚く消えてゆくものを、ヒトは愛と呼ぶのだろう



朝目覚めると、隣で寝ていたはずのなまえの姿がない。
ベッドから起き上がり、彼女の姿を探して自室を出た。
キッチンの方から物音が聞こえ、リビングの扉を開ける。
キッチンで作業する後ろ姿は、見慣れた彼女のものだった。
そう言えば母は今日も早くから仕事だったか。

「なまえ」

気付かれないようにそうっと近付き、後ろから抱き締める。
なまえはびくりと一瞬肩を震わせた。

「終夜…びっくりさせないでよ」
「起きたらそなたの姿が見えぬのでな」
「もう」

短い会話の後になまえは朝食の準備を再開する。
やりづらそうにしながらも、離せとは言わない。
彼女はまるで私のことを見透かしたように優しさを与える。
今日もあの未来の夢を見た。
最早私にとっては過去の話なのだが、やはりどれだけ時が経ってもあの世界に残してきた母や仲間のことが気掛かりなのだ。
そしてそんな夢を見た日には、なぜかなまえはとても優しい気がする。

「なまえ」
「ん?」
「そなたは本当に優しいな」
「なあに?急に」

振り向かないなまえの首もとに顔をうずめる。

「……終夜って、たまにそうやって甘えてくるよね」
「?」
「引っ付いてくるのはいつもなんだけど……そばにいてほしいって全身で言ってる感じ」

ぴたり、と動きを止める。
自覚がなかったがそうか、これは甘えなのか。

「あ、嫌な訳じゃないのよ!」

私が動きを止めたことに、不快感を与えたかと思ったのだろう。
慌てたように言った。

「むしろ嬉しいの」
「む?なぜだ?」
「そんなにも必要とされてるんだ、って思うから」

なまえが顔だけ振り返る。

「私、終夜のこと好きよ。だから、そばにいたいの」

恥ずかしがって滅多にそういうことを言わないなまえが、私を必要としている。
私はなまえの頬に唇を寄せた。


「私も、愛している」


いつか、なまえにも話そう。
私にはもう一人母がいて、大切な仲間たちがいること。
あの壊れた世界ではなく、なまえを選んだことを。




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