両腕いっぱいに花束を抱えて、せめて今日だけはロマンチックを気取ろうか
「え」
うっかり落としそうになったカップを慌てて持ち直す。
きっと今俺は間抜けな顔をしてるに違いない。
「リンクさま、ご存じなかったのですか?」
なまえの最愛の妹から告げられた言葉に、自分が勇者だとか言われた時よりも衝撃を受けている。
「なまえの…誕生日…?!」
しかも今日。
もちろん毎日会っているはずの本人からは、そんなことを話されてはいない。
言ってくれたら冒険時に有り余るほど貯まったルピーで何か用意できたのに。
いや今は何で言ってくれなかったとかそんなことよりも。
「お茶ごちそうさま」
立ち上がり、脇に立て掛けておいた剣と盾を手早く背負う。
「お兄様がお城からお帰りになるまで、お待ちにならないのですか?」
本当はそうしようと思っていたけど、それどころではなくなった。
「ごめん。また来るよ!」
「っはあ」
物を抱えて走るのは疲れる。
でもこんな疲れなんてなまえの事を考えてしまえば吹き飛ぶから問題ない。
なまえの屋敷の前で見慣れた背中を見つけた。
「なまえ!」
なまえが振り返る。
両腕にそれらを抱えたまま抱き着こうと、走るスピードを上げた。
きっと今俺は幸せな顔をしてるに違いない。