最初に提示された一ヶ月という期間は、あっという間だった。
「なまえ、帰ろうぜ」
「おー」
今日もグリーンの隣に並んで歩く。
いつものように他愛ない話をしながら下駄箱へ向かうと、
「げ、」
いつの間にか外は雨が降っていた。
「しまった…」
「傘は?」
「いや、このくらいならまだ走って帰れる…と思う」
人様の傘を黙って借りるのも悪いしな。
そう思っていると、軽い音をたてて開いた傘の下に、腕を引かれる。
「帰るぞ」
「…おう」
二人並んで雨の中に歩き出した。
「………」
「……?」
なんだか今日はグリーンの口数が少ない。
雨が降って憂鬱、というわけでもないだろうし…。
「なまえ」
「!」
突然名前を呼ばれて少し驚いた。
顔をグリーンに向ければ手を引かれて立ち止まる。
「一ヶ月、考えてくれたか?」
「!」
忘れていたわけじゃない。
ただ俺は、
「その…」
「…………」
「わかんなくなってたんだ」
「…え?」
「今日が、その日だってわからなくなるくらい……毎日が楽しかったんだよ」
手首を掴んでいるグリーンの手に、わずかに力がこもる。
「つまり、その、多分…だな」
ああどうかこの熱がグリーンにバレませんように。
「好き、なんだと思う」
ぐいっと強く腕を引かれ、きつく抱き締められる。
傘が地面に落ちた。
「本当か…?」
「…うん」
「なまえ…!」
小さい子が、好きなおもちゃを取られるのを嫌がるような。
そんなふうにぎゅうぎゅうと抱き締められて、
「なまえ……」
「………」
グリーンのくちが俺のくちと合わさった。
雨に濡れて冷たいはずなのに、自分とグリーンの熱しか感じられなかった。