船長に少し色を付けた賃金を渡し、当たり障りない言い訳をして甲板へ戻る。
すると先ほどの少年がこちらに気付いて近付いてきた。
「えっと・・・さっきは、大丈夫だった?」
「え?」
「飛び乗って来てたから、怪我とかしてないかなって」
少年は心配性な性格なのか、本当に心配をしているという表情をしている。
「大丈夫よ、ありがとう」
笑顔で返せば安心したように彼も顔を綻ばせた。
「僕はジュード・マティス。君は?」
「私は、・・・フィオ」
名乗る瞬間、不自然な間が空いてしまったが、それを不審には思われなかったようでジュードの後ろにいた男性と女性が声をかけてきた。
「おたく、よくあれだけの距離を飛んできたな」
「僅かだが、四大の力を感じた。術を使ったのだろう」
「四大・・・?何かは分からないけれど、確かに精霊術の一環ね」
女性はミラ、男性はアルヴィンというらしい。
私の前に飛び乗っていたのは彼らだと思うが、なぜ兵に追われていたのだろうか。
「見ろよ。イル・ファンの霊勢が終わるぞ」
問おうとする前にアルヴィンが口を開いたため言葉を飲み込む。
そしてその言葉通り、星の瞬く夜空は晴れ晴れとした青空に変化した。
アルヴィンは傭兵らしく、二人をラ・シュガル兵から助けたのは金になるからという理由らしい。
しかし二人は手持ちがないのだと知ってもそう落ち込むことはなく、ア・ジュールで仕事を探すさときっぱりとした口調で言い放った。
「フィオは?何をしにア・ジュールに行くの?」
ジュードの問いに目を閉じる。
「・・・大切な人を、守るために」
小さくつぶやいたそれは風と汽笛の音に掻き消された。
小首を傾げるジュードに気にするなと意味を込めて、笑みを返した。